山の辺の道の道沿いには、幾つもの神社や寺院が境内を構えています。また、数多くの歴史の跡や遺跡なども残っていて、悠久の時の流れが感じられる道筋です。
道は、白毫寺を過ぎた後、八阪神社を左に見ながら、その先で円照寺へと向かうのですが、途中には、崇道天皇(すどうてんのう)の陵(みささぎ)前を通ります。
どこかで耳にした、聞き覚えがあるこの天皇。一般には、早良親王(さわらしんのう)として知られています。奈良時代の末の頃、時の桓武天皇が平城京から長岡京へと都を移そうとしていた時、天皇の腹心の人物が殺害されてしまうのです。その事件の罪を着せられ、長岡京の乙訓寺(おとくにでら)に幽閉されることになったのが、他でもない、早良親王だったのです。
親王は、絶食の後憤死したとされていますが、その後、桓武天皇周辺に様々なわざわいが起こったことから、後に、”崇道天皇”という称号が与えられ、手厚く祀られることになりました。東大寺などに住まいして、仏の道に帰依した人が、政権の綾により還俗し、不本意な生涯を送ることになったのです。
後の世の人々は、この方の無念を思い、大和盆地が見渡せる山の辺の道の一角に、陵を設けたのだと思います。そんな歴史を想いつつ、山の辺の道を歩きます。
(崇道天皇に関する記事は、私の以前のブログでも紹介しています。)
藤原町
民家の脇の細道を進んだ先は、雑木林が目の前にあり、その手前には小さな川が流れています。道は、その川に沿って、少し下流の方向へ。
やがて、視界が開けると、見晴らしのよい丘陵地のような場所に出て行きます。そこは、農地が広がって、ところどころに、新しそうな住宅も見られます。
この辺り、まだ奈良市の領域です。地名は、奈良市藤原町。天智天皇の時代から、要職に就いた藤原氏と関連があるのかどうか。由緒ある町のようにも思えます。
※遠方も見渡せる丘陵地のような場所を通ります。
緩やかな傾斜地に広がる農地。その向こうには、大和盆地の西に連なる生駒の山地も見られます。
春先ののどかな風を受けながら、大和路を歩きます。
途中、分かれ道のところには、円照寺への道を示す案内表示がありました。角々に設置された標識を頼りにすれば、道を間違うことはありません。
※大和盆地と生駒の山地も望めます。農道の分岐に設置された案内表示を頼りに進みます。
小高い丘や農地の中を通る道。緩やかに弧を描き、或いはまた、丘を上って下ります。古代を生きた人々も、山々や里の景色を愛でながら、この道を往き来していたのかも知れません。
※のどかな景色の中を1本の道がつながります。
白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)
ひとつの丘を越えた後、道は、集落に入ります。坂を下って、集落の中心部に近づくと、その一角に小さな神社がありました。
白山比咩神社と表示されたこの神社、石川県の加賀一宮にゆかりがある、白山信仰に由来する神社だということです。どうしてこの地にそんな神社があるのかと、不思議に思った次第です。
※ 白山比咩神社。
八島町
藤原の集落を通過した後右折して、西方向に下ります。この辺り、奈良市の八島町というところ。丘と丘に挟まれた、谷のような地形の道を進みます。
※八島町に入った道。
坂道の途中には、嶋田神社と表示された小さな神社もありました。左右から小高い丘が迫る場所。見晴しは、少し遮られた状態です。
※嶋田神社。
道はこの先も、緩やかな坂道です。石垣を配した民家の傍を、ゆっくりと下ります。
※八島町の下り道。その先が崇道天皇陵です。
崇道天皇陵(すどうてんのうりょう)
坂道を下り進んだ先にあったのが、冒頭でも紹介した、崇道天皇の陵(みささぎ)です。小高い丘の先端に設けられた陵は、大和盆地を見下ろすような場所にあり、不遇の人を手厚く弔っているようにも思えます。
一方で、盆地の方からも、この陵の姿を望めるのかも知れません。多くの人が陵墓を望み、世の平安を念じてきたのでしょう。
陵の入口辺りには、宮内庁の表示板。そこには、「崇道天皇 八嶋陵」と書かれています。厳かな雰囲気の陵墓の前で手を合わせたものでした。
※山の辺の道の右にある、崇道天皇陵。
正面からの天皇陵をご覧いただければと思います。実際には、天皇として即位していない方ですが、このように、”天皇”として認知され、今も宮内庁が厳重管理をしています。
※正面から見た天皇陵。
山道
崇道天皇陵を過ぎた後、道は、すぐに左折して、山道のようなところに入ります。実際は、丘の中を進む道。木々が覆い、土の道が続きます。
この道は、次の目標地点、円照寺へとつながる道で、標識を確認しながら進みます。
※山道のような雰囲気に変わります。
途中には、お地蔵さんや小さな祠なども見られます。道は、少しずつ、神聖なところへと近づいてきた雰囲気です。
※山道には、お地蔵さんなどが集まっている場所もありました。
しばらくすると、山道のすき間から、整備された砂利の道が現れました。この道は、円照寺の、正規の参道なのでしょう。
今歩いている山の辺の道。こちらは、山の中を縫うように進んだ後で、この参道につながります。
いよいよ、次の目標地、円照寺はすぐそこです。
※山の辺の道は、このように正規の参道につながります。