第21番穴太寺は、亀岡市に所在する唯一の札所です。この亀岡市、京の都の北西部に位置しています。有名な、嵐山に流れている桂川の上流にあり、渓谷を流れ下る保津川下りの起点となるところです。戦国時代に名を馳せた明智光秀は、この地に丹波亀山城*1を築くとともに、城下町を整備して都の防御を確たるものにしたのです。
京都市に程近い亀岡市。今は、京阪神のベッドタウンの位置付けもありますが、落ち着いた町並みや農地なども残っていて、山深い丹波の国へと踏込んだ、独特の雰囲気が感じられるところです。
穴太
第21番目の札所である穴太寺は、”あなおじ”と呼ぶようです。ただ、お寺で頂いた資料には、”あなおうじ”と書かれています。どちらが正しい読み方なのか、定かではないものの、この文字は、他にも幾つかの読み方があったような気がします。
これまで耳にした呼び方は、滋賀県大津の穴太(”あのう”)です。京阪電車の坂本線には、穴太駅(あのうえき)という駅があり、その辺りは、大津市の穴太と呼ばれています。石垣を築く専門集団、穴太衆(あのうしゅう)で有名なところです。
大津市の穴太には、また、高穴穂(たかあなほ)神社が鎮座していて、穴太との関連が想起されるところです。初期大和の王権が、崇神天皇(第10代)を中心に奈良三輪山の麓に築かれた後、第12代の景行天皇がその晩年に宮を設けた穴太の地。そこに設けられた社こそ、高穴穂神社の由緒だということです。
※大津市穴太にある高穴穂神社。(別途訪れた時の写真です。)
さらに連想を広げると、聖徳太子の母親は、穴穂部間人王女(あなほべのはしひとのひめみこ)であり、蘇我馬子の策により葬り去られた太子の叔父は、穴穂部皇子(あなほべのみこ)という方です。
穴太寺と大津の穴太の関わりや穴穂部などの名前について、関連性は分かりませんが、何らかの繋がりがあったのかも知れません。そんなことを想いながら、次の札所に向かいます。
門前
亀岡市の市街地を横切って、亀岡市曽我部町の穴太の集落に入ります。そこは、そこそこ大きな集落で、瓦屋根の住宅が軒を連ねて並んでいます。
道路の脇には、幅の広い水路が築かれ、集落内を巡っています。
水が流れる集落の中央を真っ直ぐに進んで行くと、真正面に立派な仁王門が見えました。私たちは、途中にあった駐車場に車を停めて、門の方へと向かいます。
※穴太寺の仁王門。
境内と本堂
あいにくの雨の中、厳かな仁王門をくぐり抜け、境内へと進みます。すっきりとした境内の正面は、入母屋造の本堂です。そして、左手に多宝塔、右には鐘楼が見えました。
お寺でいただいた資料には、「穴太寺(あなおうじ)は、山号を菩提山と号し、天台宗に属します。古くは『穴穂寺』『穴生寺』『菩提寺』などとも呼ばれていました。」と書かれています。8世紀初頭の創建であり、他の霊場と同様に、長い歴史が刻まれた古刹です。
※穴太寺の境内の様子。
私たちは、真っ直ぐに本堂へと歩みより、参拝に向かいます。本堂に近づくと、向かって右の建物に、納経所と受付の窓口がありました。確認すると、外からの参拝は自由にできますが、お堂の中に入るのに300円が必要とのこと。
せっかくの参拝です。本堂の中へ入り、お参りさせていただきました。
※本堂の左隅付近から内部に入らせていただきます。
釈迦如来大涅槃像(しゃかにょらいだいねはんぞう)
この寺の本尊は、薬師如来ということですが、札所の本尊もあり、それが聖観世音菩薩です。いずれも、秘仏とされていて、見ることはできません。厳かな内陣に向け手を合わせ、参拝を終えました。
その後、私たちは、内陣の右側へ。そこには、黄金の立派な涅槃像がありました。これは、釈迦如来大涅槃像と呼ばれています。大きさは、大人の背丈よりやや小ぶりぐらいなのでしょう。気品あるそのお姿は、なかなか日本では見られない仏像です。
穴太寺を訪れられたら、ぜひご覧いただきたいと思います。(写真に納められなかったのが残念です。ここでは、穴太寺作成の資料でご覧いただければと思います。)
※寺院の資料に掲載された釈迦如来大涅槃像。
帰路
参拝を終えた後、本堂と対面する仁王門に向かいます。この角度では、左手が手水舎と鐘楼で、右側に多宝塔や小さなお堂などが見られます。
仁王門から覗く道は、真っ直ぐな直線状。この光景を見ていると、穴太寺は、村の中の要であることが分かります。
※本堂を背にして仁王門の方向を望みます。
多宝塔と天満宮
多宝塔と、隣にある小さなお堂をご覧いただきたいと思います。名残りの紅葉が鮮やかに写るこのシーン、見応えがある境内の一角です。
※多宝塔と小さなお堂。
多宝塔前を通り過ぎ、仁王門に近づくと、そこには、小さな鳥居とお社がありました。このお社は、穴太寺の鎮守社で、菅原道真をお祀りする天満宮だということです。
朱塗りの柵や梅の木が配れて、小さいながらも存在感あるお社です。
※天満宮。
最後に、多宝塔の奥にある、穴太寺庭園の景観をご覧頂きたいと思います。帰路に気づいた説明板に張り付けられたこの写真、大変立派な庭園です。機会があれば、またいつの日か訪れてみたいと思います。
(この庭園、先ほどの本堂横の受付で、300円を支払えば、拝観することが可能です。本堂と庭園のセットは500円となります。)
※穴太寺庭園の写真が貼られた説明板。
*1:お城は”亀山城”といいます。