旧篠ノ井市
街道は、千曲川を渡った先で長野市に入ります。長野市の最初の街は、篠ノ井というところ。この街は、かつては、篠ノ井市という独立した自治体でした。資料を見ると、この自治体は、1959年に市政が敷かれ、1966年には長野市になりました。この間わずか7年という、短命な市であったわけですが、篠ノ井は、多くの人が知っている、名の通った街なのです。
そのわけは、おそらく、篠ノ井駅にあるのでしょう。JRの路線を見ると、名古屋駅から塩尻駅へ、そして、塩尻駅から東京駅へと繋がっている中央本線。この路線を通る特急は、塩尻駅を経由した後、篠ノ井線を利用して、松本駅、あるいは、長野駅までその先線を延ばしています(新宿駅ー松本駅間を走る特急あずさ、名古屋駅ー長野駅間を走る特急しなの)。この、塩尻駅と長野駅とを結んでいる路線こそ、篠ノ井線と呼ばれていて、その路線の中心駅が篠ノ井駅になるのです。
篠ノ井駅は、かつてのJR信越本線起点の駅で、この駅と東京方面がJRの軌道によって繋がれていましたが、今は、北陸新幹線が主流となったため、JR信越本線は姿を消して、篠ノ井ー軽井沢間をしなの鉄道が繋いでいます。主流となった北陸新幹線。実は、篠ノ井駅の構内を通過していながらも、篠ノ井駅には新幹線の駅はありません。何とも残念な、かつての路線の中心地。今も、重要な場所であることに変わりはないのだと思います。
※地図の最下部で千曲川を渡り、東に向けて川越し跡の地点へと向かいます。
街道は、千曲川の川越しの場所ですが、今は、国道の橋を渡ります。国道18号に架けられた篠ノ井橋。正面には、なだらかな山並みが見渡せます。
篠ノ井橋を渡り終える直前には、「長野市」と記された標識がありました。街道は、いよいよ、長野市の領域に入ります。
ただ、正規の街道は、千曲川の川越しの先。今は、迂回して国道の橋を渡っているため、本来の街道筋の東側を遠巻きに進んでいるところです。この先で、橋を越え、千曲川の左岸伝いに数百メートル西(左方向)に向かった先で、川越しの地点に到着します。
※長野市に入る街道。
千曲川左岸
千曲川左岸道路は、整備されたきれいな道が続いています。堤防も、新しく、頑丈にできているのが分かります。
おそらくこの辺り、2019年、本州を襲った台風19号の影響で、堤防がダメージを受けたのだと思います。そのために新しい護岸が整備され、堤防の強化が図られてきたのでしょう。
※新しく整備された千曲川左岸堤防。
矢代の渡し
上の写真の堤防を右下に下るところに見える小さな森。この森は、鎮守の森らしく、奥には神社が見通せます。
この神社の入口のところにあったのが、「矢代の渡し跡」と記された説明板。そこには、次のように書かれています。
「江戸時代には、ここ軻良根古(からねこ)神社のあたりから千曲川対岸の矢代(現在の屋代)へ渡るための『矢代の渡し』があった。ここは北国街道篠野井追分宿と矢代宿を結ぶ松代藩七渡しの一つで、この近くの人々には『矢代の渡し』と言われていた。天保十四年(1843)にだされた『善光寺道名所図絵』のなかに、『是より矢代宿まで一里なり 其間 千曲川繰船の渡しあり』とある。その頃は渡し船であったことがわかる。」
※堤防下の神社前に置かれた「矢代の渡し跡」の説明板。
篠ノ井宿へ
ようやく、矢代の渡しの地点に戻り、正規の街道歩きを続けることになりました。道は北へと向かい、道沿いには、リンゴの木やその他の果樹が植わっています。
目線の先は、住宅地。果樹園は、わずかな空間を埋めているという状況です。
※矢代の渡し跡から北に向かって進みます。
更級郡制の中心地
街道が、住宅地に入ったところには、ひとつの石標が置かれています。その石標、「←郡役所跡 →警察署跡」と彫られています。
この石標傍に建てられた説明板を見てみると、「明治時代の更級郡制の中心地」と表示され、幾つかの建物の解説と、簡単な地図がありました。
そこに記されていたのが、明治の時期の役所など。この一角に、更級郡役所や塩崎警察署、その他、地租改正取調所や蚕病予防事務所などの建物が固まっていたということです。
※更級郡役所などを示す石標と説明板。
篠ノ井宿
おそらくは、この郡役所などが置かれた場所は、元々は、篠ノ井の宿場町の一角だったと思います。今は、何も残ってはいませんが、明治になって設置された役所の跡だけが、今も語り継がれているのです。
街道は、更級郡制中心地を過ぎた後、T字路の交差点に入ります。そして、そこを右折して、今度は東に向けて進みます。
東向きの街道は、篠ノ井宿の真っただ中。それでも今は、住宅が建ち並び、宿場町の面影はひとかけらもありません。
※篠ノ井宿を通過する街道。
街道は、この先で、しなの鉄道線の踏切を越え、さらに隣接する場所を通っている、北陸新幹線の高架下を潜り抜け、篠ノ井宿の東の部分に入ります。
※篠ノ井宿の東部に入った街道。