近江へ
京都伏見を後にして、西国三十三所巡りは、近江の国に入ります。近江には、都合6か所の霊場がありますが、前半は、湖南地域の3か所です。
京の都に隣接し、東西を結ぶ主要な街道が通過する近江の国は、古くから、戦略上の要として、数々の歴史の舞台となりました。戦国の時代には、各地に城郭が築かれて、都を守り、或いは、都にのぼる、拠点の地となったのです。
近江と言えば、また、琵琶湖の存在と切り離すことはできません。近江の文化は、琵琶湖とともに築かれて、近江の人は、琵琶湖とともにその命を育んできたのでしょう。
南紀熊野から始まった、観音霊場の巡り旅。紀州、泉州、河内を経て大和の国へ。そして、宇治、伏見から近江へと進みます。
国境の霊場
醍醐寺に続く札所は、第12番目の岩間寺。今日では、山科へと向かった後で、逢坂の関跡を通過して、大津へと下ります。その後は、石山の街に入り、琵琶湖から流下する、瀬田川の右岸沿いに南下です。
途中、有名な、瀬田の唐橋を左に見ながら、第13番目の札所がある、石山寺を通り過ぎ、その先で、西方向(右側)の深い山へと向かいます。そして、つづら折れの坂道を上り進めた山中に、岩間寺は佇みます。
この霊場、地図を見ると、先の札所の醍醐寺からは、直線距離で数キロです。位置的には、醍醐寺のほぼ東。京都と近江の県境にあたります。
昔の人は、おそらく、この山中を直線的に上り進んで、13番札所へと足を進められたことでしょう。
今は、車で向かう岩間寺。坂道の車道が尽きたところに、そう広くはない駐車場がありました。
※車道の突き当を利用した駐車場に車を停めて、境内へと向かいます。
境内へ
駐車場のすぐ先は、コンクリート造りの建物です。”会館”と呼ばれるこの建物、由緒ある寺院には、似つかわしくない容姿です。
私たちは、会館前を通り過ぎ、奥にある境内へと向かいます。道沿いには、赤と白の幟旗。そして、幾本もの石灯籠が並んでいます。
※幟旗が並ぶ境内へと向かう道。
しばらく進むと、道は細くなり、その入り口の左右のところに、仁王像がありました。金属製の像のように見えますが、かつてはここに、仁王門があったのかも知れません。
※仁王像が待ち構える参道の入口。
大師堂
参道を進んで行くと、その突き当りが大師堂。弘法大師とも関係があるようですが、この寺院を開かれた、泰澄大師に由来するお堂だということです。
※大師堂。
大銀杏
私たちは、お堂の前を通り過ぎ、本堂のある境内へと進みます。深い山の中の境内は、全体として木々に囲まれ、それほど広くはありません。
その中で、境内の中央付近の大銀杏は、見事な存在感を示しています。
樹齢350年といわれる大銀杏。幹の前には、小さな祠も置かれています。
※見事な銀杏の大木。
本堂
大銀杏を回り込み、さらに奥へと進んで行くと、木々が覆った、本堂の建物が見えました。山際に、ひっそり佇む本堂は、奥ゆかしく、静かに参拝者を迎えています。
本堂の右側には、芭蕉の池と呼ばれている、古池も見られます。池の前には、芭蕉の句碑。次の俳句が彫られています。
古池や 蛙飛び込む 水の音
余りにも有名なこの一句、この地で詠まれたという説があるようですが、真偽のほどは分かりません。
※岩間寺の本堂と、右にある古池前の様子。写真右側の石(岩)が芭蕉の句碑。
岩間寺(いわまでら)
岩間寺は、正式には、岩間山正法寺と呼ぶようです。お寺で頂いた資料によると、その縁起について、次のように書かれています。
「滋賀県大津市と京都府宇治市の境にある標高443mの岩間山中腹に位置し、真言宗醍醐派岩間山正法寺(通称岩間寺)と称する。」
「養老六年772年、加賀白山を開いた泰澄大師が元正天皇の33歳の大厄の病を法力により治した褒美として建立したことに始まる元正天皇の勅願寺院である。往昔は、後白河・後宇多・正親町(おおぎまち)天皇等歴代天皇の尊崇厚く熊野、吉野に並ぶ、日本三大霊場の一として隆盛していた。」
※岩間寺本堂の正面。
私たちは、本堂で参拝し、すぐ脇にある納経所で御朱印をいただきます。そして、その時同時に、参拝料500円をお支払いしたような気がします。
夫婦桂
本堂を後にして、境内へと戻るところに、「夫婦桂」と表示された、大木がありました。この大木、桂の木だそうで、岩間寺の起源に関わる霊木です。
資料には、泰澄大師は、
「加賀白山を開く途上、霊地を求め岩間山を訪れた折、桂の大樹より千手陀羅尼を感得し、その桂の木で等身の千手観音像を刻み、元正天皇の御念持仏をその胎内に納め祀りご本尊とした。」
と記していて、今も、この千手観音菩薩が岩間寺の本尊として祀られているようです。
※夫婦桂の大木。
ぼけ封じ
今の時代、”ぼけ”という表現は、少し抵抗もありますが、岩間寺には、”ぼけ封じ観音”様が鎮座され、心身の健康を祈願する人々も、数多く参拝される様子です。
帰路、この観音様にお参りし、続く札所に向かいます。