伏見と山科
宇治に続く霊場は、京都伏見の醍醐寺です。伏見と言えば、伏見稲荷や伏見桃山城があるところ。ところが、醍醐寺は、そこからは、少し離れた場所にあるのです。
宇治市の最北端の六地蔵。そこから平地は、V字状に2方向に分かれます。左に向かうと、まさに伏見の方角で、京都盆地につながります。反対の右側は、山科(やましな)へと向かう道。次の札所の醍醐寺は、この、山科への道沿いに境内を構えています。
山科は、京都市でありながら、少し趣を異にした地域です。都との間には、東山の連山が壁をつくり、西側の近江とは、逢坂山や南郷の険しい峰々が、往来を阻んでいます。そのような地形から、この地域は、”山科盆地”とでも言えるような、独自の空間が広がります。
都と近江に挟まれた山科の里。天智天皇の陵(みささぎ)や、毘沙門堂など、古くからの貴重な史跡が残っています。また、かの蓮如上人は、この地に、山科本願寺という、広大な宗教都市を築きます。*1
街道も縦横に交わるこの土地は、古代から、重要な場所として、位置付けられてきたのでしょう。
醍醐寺へ
醍醐寺は、宇治市六地蔵から山科の盆地に向かう、狭隘な平地の隅に、境内を構えています。辺りは、閑静な住宅地。古くから、南北に走る街道沿いに形成された、落ち着いた雰囲気の町並みです。
住宅地を進んで行くと、やがて右には、白壁と松の並木が現れます。随分と広い敷地が、壁の向こうにあるようで、長々と白壁は続きます。
やがて、壁が途切れたところには、醍醐寺の駐車場の案内です。その案内に従って、駐車場へと向かいます。
※醍醐寺の駐車場の入口。
参道
駐車場から、境内へと向かう道筋は、大変風情のあるところです。参道は、石畳風に整えられて、その両側には、白壁と桜並木が連なります。
街道と参道の、2重に配された白壁は、いかにも厳かで、贅沢にも感じてしまいます。
※内側の白壁と桜並木。
駐車場から境内へは、この白壁を左方向に進みます。参道は、時代劇に出てくるような、あるいは、旅情を誘う写真集のひとコマとも思えるような、いにしえ感満載の情景が広がります。
※白壁に囲まれた参道を、境内へと向かいます。
三宝院(さんぼういん)
白壁を終えたところは、広々とした砂利道の参道です。参拝者は、ここで右方向に進路を変えて、正面の仁王門へと向かいます。
砂利が敷かれた参道の左にある建物は、三宝院と呼ばれている、醍醐寺の本坊です。受付で頂いた資料には、「醍醐寺座主の居住する本坊として醍醐寺の中核を担ってきました。」と書かれています。
この三宝院、かの有名な、豊臣秀吉の「醍醐の花見」が催されたところでもあるようです。
晩年の秀吉が、伏見桃山城から豪壮な行列を従えて、ここ醍醐寺の三宝院に入るのです。北政所(きたのまんどころ)や淀君など、そうそうたる人々が、桜の花を愛でながら宴を楽しむ情景が、思い浮かぶような気がします。
※砂利道の参道。左側が三宝院、唐門も見られます。正面は醍醐寺の仁王門。
三宝院には、由緒ある建物や、秀吉自身が設計した*2、庭園などがあるようですが、ここには立ち寄らず、目的地に進みます。
仁王門
参道を進んで行くと、仁王門が参拝者を迎えます。ここから先が、醍醐寺の境内です。
門をくぐった右手の事務所で、拝観料*3を支払って、一路、観音霊場へと向かいます。
※仁王門。
金堂
仁王門の先に続く参道を進んで行くと、左手に、立派なお堂が見えました。大屋根が特徴的なこのお堂こそ、醍醐寺の本堂で、ここでは、金堂と呼ばれています。
※金堂に向かう参道。
重厚感ある金堂は、このお寺の中心ですが、私たちは参道から手を合わせ、さらに奥の、観音霊場を目指します。
※醍醐寺の本堂である金堂。
五重の塔
金堂を過ぎた先の右手には、これも立派な、五重の塔がそびえています。広々とした境内に、散らばるように建つお堂。まるで、木々が茂る森の中の公園に、由緒ある建物が寂し気に佇んでいるような光景です。
※五重の塔。
准胝堂(じゅんていどう)
西国三十三所の霊場は、正式には、上醍醐・准胝堂と呼ぶようです。ただ、通称は、よく知られた醍醐寺で、ここは、少し説明が必要です。
まず、醍醐寺は、おそらく、三宝院もそのエリアに含む、この辺り一帯の境内を指すのだと思います。そして、その中心である本堂が、先に触れた金堂です。
一方で、西国三十三所は、まさに、観音様の霊場です。観音菩薩が祀られたお堂こそ、三十三ヶ所の巡拝の対象です。醍醐寺では、准胝堂が、そのお堂にあたるのです。
ただ、資料によると、このお堂は、近年、火災に見舞われたということで、今は観音堂が札所の役割を果たしているということす。
私たちは、境内をさらに奥へと足を向けて、この、観音堂に向かいます。
※ 観音堂。
境内の奥に向かうと、左手に、観音堂がありました。石垣で一段高まったそのお堂。背後の山に守られてでもいるように、安らかに、木陰の中に佇みます。
上醍醐・准胝堂の本尊は、准胝観世音菩薩ということですが、その功徳がどこにあるのか、よく分からないのが実情です。
何れにしても、観音霊場の巡拝です。心を清めて、ただ、手を合わすのみ。お堂の中で御朱印もいただいて、次の札所に向かいます。
※観音堂は、正面石段が封鎖されていていますので、裏口が出入り口となります。