旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

巡り旅のスケッチ[西国三十三所]10・・・長谷寺と法起院(後編)

 巡礼の起源

 

 初瀬の町には、西国観音巡礼のゆかりの寺院が佇みます。法起院(ほうきいん)という名の小さなお寺、長谷寺門前町が鍵型に折れる辺りに、ひっそりとその境内を隠しています。この法起院長谷寺の開基である、徳道上人という方が、晩年に隠棲されたところです。そして、徳道上人その人こそが、西国三十三所霊場を設けられた方なのです。

 法起院には、徳道上人が本尊として祀られていて、境内には、上人の霊廟も置かれています。多くの人が巡拝する、西国三十三所霊場巡り。その原点が、ここ初瀬の地にあったのです。

 

 

 長谷寺の帰路

 長谷寺の参拝を終え、再び、登廊(のぼりろう)を辿りながら、仁王門へと向かいます。後に分かったことですが、お寺推奨の帰路のコースは、本堂の左手の側面から外に出て、山の斜面を伝う道。幾つかのお堂が配置され、花の時期には、格好の散策路になるようです。

 次回は、ぜひとも、花の季節に訪れてみたいと思います。

 

※”中”の廊から”下”の廊とその先の仁王門を見下ろします。

 下の写真は、下り道から、本堂を見上げたところです。舞台を撮ろうとしましたが、その様子がよく分からないのが残念です。

 

※本堂を見上げたところ。

 

 法起院

 長谷寺を後にして、今度は、冒頭でも触れたように、西国三十三所巡礼の開祖である、徳道上人ゆかりの寺院、法起院(ほうきいん)へと向かいます。

 幸いにも、私たちが車を停めた駐車場のすぐ近く。門前町が鍵型に折れ曲がった少し先に、その境内はありました。

 

門前町の道筋から見た法起院

 

 法起院の入口は、幅の狭い導入路。そして、その正面に山門です。山門の入口からは、狭すぎる境内や、本堂などが見られます。

 往時から、このような大きさだったのか。実に控えめな寺院です。

 

法起院の山門右に置かれた徳道上人についての記載。

 西国三十三所巡礼の始まり

 法起院の山門の右手には、徳道上人に関しての、簡潔な伝記とともに、法起院の縁起について記された、案内板がありました。

 その中の記載にもあるように、西国三十三所巡礼の成り立ちは、次のようなものでした。ここでは、少し長くなりますが、法起院でいただいた、資料の記事を紹介します。

 

 徳道上人は、

 「当時我が国随一の大名僧であった大和長谷寺の道明大徳との間に師弟の契りをお結びになりました。約十年間の修行の後、智道兼備の名僧となられた上人は、大和の長谷寺、鎌倉の長谷寺をはじめ諸国に四十九ヶ所の寺院を建立されました。その中でも大和の長谷寺では本尊大観音を御造立されました。」

  

 そして、

 「養老二年の春、突然の病のために仮死状態にあった上人は、夢の中で閻魔大王にお会いになり、悩める人々を救う為に三十三ヶ所の観音菩薩霊場を広めるように委嘱され、そして三十三の宝印を与えられて仮死状態から解放されました。

 「上人は三十三ヶ所の霊場を設けましたが、人々は上人を信用しなかったので、やむなく宝印を摂津中山寺(なかやまでら)にお埋めになったと伝えられています。」

 

 この巡礼の始まりは、西暦718年のことでした。平城京に都が移って、わずか、8年後。人々は、巡礼の余裕など、無かったのかも知れません。

 

法起院の本堂(開山堂)と霊廟(左端)。

 その後

 西国三十三所の巡礼は、その後270年の時を経て、西暦988年に、花山法皇中山寺の宝印を掘り出され、復興を果たされます。

 悠久の時を経て、伝えられたこの巡礼。今も多くの人がその跡を巡っています。

 

法起院の中にある、徳道上人の霊廟。

 

 御朱印

 法起院は、西国三十三所の札所ではありません。それでも、このような背景を持つ、重要な寺院です。山門横の案内板にもあるように、今は、「番外札所」の位置づけで、御朱印を頂くことができるのです。

 

法起院で頂いた御朱印

 

 一区切り

 

 今回で、「巡り旅のスケッチ[西国三十三所]」は一区切り。時期を見て、続く札所の興福寺南円堂から、残りの霊場巡りを紹介したいと思います。

 

 そういう訳で、次回からは、再び歩き旅に戻ります。今度歩く街道は、日光に向かう道。「歩き旅のスケッチ[日光道中]」のシリーズです。

 これまでの3街道*1の歩き旅は、江戸を目指した旅でした。ところが、今回は、その逆です。江戸日本橋を起点とし、徳川家康が祀られた、日光東照宮を目指します。

 およそ140キロの道中を、往時の旅人の影を追いながら、また、ところどころで重なっている、「奥の細道」の風景なども、折に触れ、紹介したいと思います。