谷あいの道
下諏訪宿を起点として、甲州へと向かう街道は、急峻な峠道のイメージですが、実際には、それほどの険しい道ではありません。その理由は、西側の南アルプスの連山と、東側の八ヶ岳連峰に挟まれた谷あいが、絶妙な隙間を作り、そこに街道が敷かれたからだと思います。
勿論、長く続く坂道も、無いわけではありません。それでも、思いの外、歩きやすい道筋が続くのです。
宮川の上流へ
宮川坂室の交差点を左折すると、街道は、諏訪盆地を流下している、宮川の上流の流れと出会います。そして、この先、宮川の右岸道路に沿いながら、川の流れに逆らうように、上流へと向かいます。
途中、道なりに進んでいくと、急な坂道に変わります。そして、その先に、中央自動車道路の高架橋。ただ、街道は、この道なりのルートではありません。急坂に入る辺りの右側にある、小さな橋を渡るのです。
この分岐の道は、要注意。よく、地図を見ておかないと、見逃してしまいます。
※交差点直後の街道。宮川の流れを右に見て歩きます。右、右方向の橋を渡る道が街道です。
旧道
小さな橋を越えた後、街道は、真っ直ぐ延びる旧道へ。左には、山の斜面が迫る中、右側は、宮川が流れています。しばらくすると、宮川と街道との間には、わずかばかりの平地が現れ、農地など、有効に土地活用がなされています。
この先、さらに先細る平坦地。厳しい自然の中にあっても、人々の生きる知恵は、尽きることがありません。
※旧道と、わずかな平地に展開する農地。
国道へ
旧道の街道は、やがて、JR中央本線の線路近くを通ります。そして、その先で、軌道に架かる橋を渡って、鉄道の反対側へと向かいます。
※JR中央本線。坂を上がった右手の橋を渡ります。
高架橋を渡った先は、S字状の下り坂。その道路脇には、甲州道中でよく見かける、複数の石仏や石碑が置かれた一角がありました。
この先、街道は、国道20号線に入ります。茅野駅の少し手前で別れを告げた国道と、久々の再会です。
国道は、緩やかに、カーブを繰り返し、谷あいを縫うように南東へと向かいます。
※左、S字の坂道。石碑群が見られます。右、国道20号線に入った甲州道中。
金沢宿へ
街道は、ひとつの集落を通り抜けると、宮川の流れに近づきます。堤防の辺りには、歴史を感じる、常夜燈がありました。
※国道20号線と常夜燈。土手の右が宮川です。
この先しばらく、国道の歩道を進むのですが、トラックの往来が頻繁で、時に危険さえ感じます。そして、その後、国道から右方向の旧道へ。一旦、国道の喧騒から距離を置き、安心して街道歩きを続けます。
ただ、国道は、街道からそう離れていない左側。国道を脇に見ながら、農道のような旧道を進みます。
※左、国道から右側に入ります。右、その後、真っ直ぐ延びる農道へ。
この辺りの水田も、わずかな平地を利用して、隙間なく広がります。のどかにも感じる道ですが、農家の方にとっては、様々な苦労があるのでしょう。
農道をしばらく歩くと、街道は、再び国道に入ります。
この辺りから、金沢の宿場町となるのでしょうか。鎮守の杜(「権現の森」と呼ばれています)など、少し趣きのある風景に変わります。
※金沢宿の入口辺り。(農道と国道との合流地点)
金沢宿
国道と合流した甲州道中。道端に、「旧 甲州街道」と表示された、金沢宿に関しての説明板がありました。金沢の宿場の歴史が、おぼろげながら伝わってくる内容です。ここで、少し、紹介したいと思います。
「権現の森の前から通るこの道は、旧甲州街道です。現国道20号線は、明治以降の道路改修で造られました。この街道沿いに青柳宿(旧金沢宿)がありました。五街道制定時、武田信玄によって造られた青柳宿は、幾度も宮川の氾濫で悩まされていたところへ、更に大火で青柳宿が全焼したのを契機に慶安4年(1651)東南方向の現在の金沢区に、藩の御林の木の払い下げを受けて宿場を移し金沢宿と改称しました。・・・青柳宿は、焼け屋敷と呼ばれ、現在は水田となっています。」
この説明書きを読むと、国道と合流する直前に通ってきた農地の辺りが、往時の青柳宿だったのかも知れません。火災と洪水に、悩まされ続けた、この土地の人々のご苦労に、思いを馳せたひと時でした。
※左、説明板。右、国道20号線と、街道(信号を左に入ります)。
街道は、権現の森前の交差点を左折して、少しだけ迂回です。そして、国道20号線に戻った後で、宮川に架かる橋を越え、再び、迂回路へと進みます。
ここまでの町並みは、宿場町の面影を感じるところはありません。わずかに、権現の森の存在が、歴史の香りを漂わせている状況です。
もうひとつ、国道の橋を越えた後、宮川の堤には、ずらりと並ぶ、石仏群がありました。余りにも整然と並ぶ様子は、違和感を放ちながらも、なぜか、微笑ましくなるような光景です。
※宮川を背に、一列に並ぶ石仏や石碑。
街道は、この先で、金沢宿の中心部へと迫ります。