旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[東海道]59・・・岡部宿と峠道

 峠越え

 

 岡部の宿場を後にして、静岡市を目指す街道は、宇津ノ谷(うつのや)の峠へと向かいます。

 この辺りを通過する、東名高速道路などの幹線は、日本坂トンネルを通り抜け、難なくこの区間を過ぎることができますが、歩き旅では、そう簡単にはいきません。

 箱根峠や鈴鹿の峠、さらには、牧之原を越えて行く、小夜の中山峠ほどでは無いにしろ、そこそこ厳しい峠道。

 駿府への道のりは、容易ではありません。

 

 

 岡部宿

 岡部の宿場は、規模としては、平均的な大きさだったようですが、国道1号線の高架を越えた所*1から、今歩いている、旧道までの間の距離は、1Km以上の長さです。この先も、まだしばらくは宿場町が続くため、それなりの大きさを誇っていたのだと思います。

 それでも、途中で頂いた資料によると、「小さな宿場のため、大名行列の時は、隣の藤枝宿から寝具や道具を借りることもあったようです」、との表記です。それ程小さな宿場町とは思えませんが、或いは、藤枝宿とは、様々な協力関係があったのかも知れません。

 

 姿見の橋

 街道は、やがて旧道から、県道に戻ります。その出口の辺りの右側に、小さな石造りの表示がありました。よく見ると、その傍には水路が流れ、道の下を潜っている様子です。そこは、僅かながらの「橋」状態。街道は、小さな「橋」を踏み越えます。

 この「橋」の”欄干”には、「姿見の橋」との表記です。説明では、「晩年の小野小町が、京都から東の国へ行く途中、橋の下を見ると、自分の姿が映っていた。長旅と病気のためにやつれた自分の姿を見て嘆き悲しんだ」という話が語り継がれているというのです。

 

  花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに

 

 これは、百人一首に納められた、有名な、小野小町の作品です。姿見の橋の伝説は、この歌と関連があるのでしょうか。そこここで、語り伝わるお話も、街道歩きの楽しみのひとつです。

 

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小野小町姿見の橋。

 

 宿場の名残り

 岡部の宿場は、全体として、往時の面影がそれほど残るところではありません。それでも、都市開発の洗礼から、わずかながらも取り残された一面もあるのです。

 そのひとつが、旧道の道の流れだったのですが、もう一つは、県道と合流した直後に見られる、歴史的な建物です。

 街道が、旧道から県道に入った先で、まず、目を引き付けるのが、立派な門とそれを囲む塀の壁。この建物は、岡部宿の本陣跡だということです。復元されたこの施設、本体こそ残されてはいませんが、敷地自体が、史跡として保存されているようです。

 

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※内野本陣跡。

 

 大旅籠柏屋

 本陣跡の隣りには、再建された雰囲気の、趣ある建物が続きます。そして、その隣には、立派な木造のお屋敷が、風格を放つようにして佇みます。

 このお屋敷は、柏屋という、旅籠が営まれていた建物です。天保7年(1836)の建築ということで、今は、歴史資料館として活用されているようです。

 山が迫り、峠を控える宿場町。この辺りの風景は、往時の面影を、わずかながらも残しています。

 岡部の宿場は、”やじさん”と”きたさん”が、大井川の川止めで、数日間の滞在を余儀なくされたところです。2人の呑気な旅人は、旅籠でのしばしの逗留をよいことに、昼間から、酒三昧の気楽な時を過ごしていたのかも知れません。

 

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※左、宿場町の雰囲気をわずかに残す通り。右、旅籠柏屋。

 

 東へ

 街道は、県道から、少し左に迂回して、岡部川に架けられた、旧道の橋を渡ります。その後、県道と再び合流した後は、しばらくの間、木陰のない熱暑の歩道をひたすら東へと向かいます。

 やがて、これまでの県道は、真っすぐ延びる主要な道を通過して、国道1号線に合流です。県道は、その手前のところで、わずかばかり左側にそれるのですが、街道は、その県道の道筋です。

 

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※県道はこの先で国道と合流します。県道(街道)は写真中央で左にそれる道となります。

 県道は、旧道の様相で谷間の中へと向かいます。右手には、岡部川の流れを見ながら、左手には、民家が続く集落を眺めつつ、峠へと続く道を歩きます。

 しばらく進むと、国道1号線が現れて、その側道のような道を辿って行くと、道の駅がありました。この道の駅は、「道の駅宇津ノ谷峠」。それほど大きな施設ではないものの、冷気が効いた休憩処は、暑い体を冷やすのに、この上ない場所でした。 

 

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※左、岡部川にそった県道。右、道の駅。

 峠道へ

 道の駅を出てからは、急に山が迫ります。一旦、国道下を潜り抜け、山間の小さな集落に入ります。

 

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※国道下を潜る街道。

 

 集落の入り口辺りの道端には、標識が置かれていて、そこから左手の山道に入ります。右方向の舗装道路を辿る場合は、「蔦(つた)の細道」と呼ばれる道で、古くから利用されていた古道です。

 少し戸惑う地点ではありますが、東海道を歩く場合は、左側に向かわなければなりません。ここは、要注意のところです。

 

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※古道との分岐点。

 やがて街道は、完全に山道へと入ります。向かう先は20番丸子宿(まりこじゅく)。そして、ひとまずは、峠を越えた先にある、宇津ノ谷(うつのや)の集落です。

 

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※峠道へ。
 

*1:前回の記事を参考にして下さい。