旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[甲州道中]45・・・峠から小仏宿へ

 武蔵の国へ

 

 街道は、いよいよ、武蔵の国に入ります。信州から、甲州を経て相模の国へ。そして、最後の国は武州です。この先、八王子、府中、高井戸など、よく耳にする名の通った街を経て、一歩ずつ、江戸の城下に近づきます。

 江戸時代に整備された五街道。この中で、今歩いている、甲州道中の道のりが、武蔵の国では、最も長い道中です。東京の西から東をつなぐ道。沿線には、JR中央本線と、京王線が走っています。

 街道を歩き刻む者にとっては、この沿線は、大変便利な区間です。最寄りの駅を起終点に、少しずつ歩き進んで、江戸日本橋を目指します。

 

 

 峠を越えて

 小仏峠で、小休止した私たち。その後は、下りの道に向かいます。

 ただ、峠には、3方向の道があり、どの道に進めば良いのか、分からなくなりました。ここは慎重に、地図を詳しく確認し、或いは、往き交う人に尋ねながら、その道を見極めます。

 しばらく迷ってしまったものの、結局は、今辿ってきた先線が正解です。他の方向は、高尾山など、南へと向かう道。素直に、進行方向へと向かいます。

 

 峠から、わずかに進んだところには、再び、開けた空間です。峠より広く開けたこの場所は、テーブルや腰掛けなども設置され、幾つものグループが、昼の食事を摂られています。

 

※峠を越えてわずかに進んだところの広場。(おそらくここも峠の一角です。)

 

 食糧を持たない私たち、羨ましくも思いながら、下り道へと進みます。(この広場から先は、右方向の下り坂と、左に進む山道の2手に分かれます。街道は右側で、左は景信山の方向です。)

 

※小仏宿に向かう下り坂。

 

 下り道

 下りの道は、良く整備された土道です。初めのうちは、急勾配で、安全を確認しながら進みます。途中には、つづら折れの道もあり、急な斜面を縫うように下ります。

 

※急勾配の下り坂。

 

 しばらくすると、勾配は緩まって、峠道とは思えない、穏やかな道に変わります。この辺りから、道幅も、一気に広がってきたように思います。

 街道の左脇には、沢筋が寄り添って、里を目指して流れています。

 

※道幅が広がり、緩やかな坂道になった街道。

 

 峠道の出口

 緩やかな坂道を下って行くと、やがて正面に、何台かの、車の姿が見えました。そこは、駐車場の様子です。

 ここに車を駐車して、小仏峠や、景信山、高尾山へと向かわれる方もいるのでしょう。

 

※左、街道から駐車場へ。右、駐車場から小仏宿に向かいます。

 街道をゆく

 司馬遼太郎の作品の、『街道をゆく1』に収められた、”甲州街道”の紀行文。その中には、この辺りの情景が、綴られていますので、少しだけ紹介したいと思います。この時著者は、車で八王子近辺の歴史の跡を偲んだ後に、東側から峠道の入口へと向かいます。

 

 「道はしだいに登りになって、やがて舗装が絶えた。このあと、森の中へ入ってゆく小径は、江戸以来の旧道である。私は車から降りた。一人でのぼっていきますから、と、比屋根さんや河合さんに言ったが、お二人はきき入れない。」

 「・・・通り過ぎると、いきなり山が深くなる。かつてはこの道を武田信玄の軍勢も通って関東に入り、豊臣秀吉の軍勢も通って八王子を攻めたはずの道で、あるいは百年前、江戸を発った近藤勇の軍勢がここをのぼり、大砲を引きながら甲州山梨県)へ向かった。」

 

 小仏の集落へ

 駐車場を過ぎた後、しばらくは、幅の狭い舗装道路が続きます。小さな川のせせらぎも、依然として、街道のすぐ傍です。

 やがて、再び、高速道路の工事現場が迫ってくると、そこには、京王バスの”小仏停留所”がありました。このバス停は、この地域の終着点。高尾駅方面などとを結ぶ、貴重な交通機関です。

 

京王バス小仏のバス停留所。公衆トイレも整備されています。

 小仏宿

 バス停留所を通り過ぎると、小さな集落を迎えます。民家は、街道筋に張り付くように、一列に並んでいます。

 ここが、かつての小仏宿。今は、宿場町の面影を見ることはできません。小さな谷に開かれた、一筋の空間に、ひっそりと佇む集落は、もの寂しささえ感じます。

 

※小仏宿の様子。

 

 小仏宿は、峠の西の小原宿から6.5キロのところです。ただ、途中には、急勾配の上り道が、およそ2キロも続くため、結構時間がかかります。

 私たちの所要時間は、3時間。ようやく里に着きました。

 小仏宿には、本陣と脇本陣は無かったということです。問屋1軒、旅籠11軒の、小さな宿場だった様子です。それでも、峠の麓の宿場町。旅人達が、装束を整えるなど、結構な賑わいを見せていたということです。

 

 駒木野宿へ

 小仏の宿場を過ぎると、再び民家は途切れます。しばらくすると、JR中央本線の軌道を支える、見事な赤レンガのガードです。明治期の香りを放つ赤レンガ。街道は、その下を、屈曲しながら潜ります。

 

※見事な赤レンガのガード。

 

 八王子ジャンクション

 街道は、依然として、谷に沿って進みます。やがて、正面には、大きならせん状の構造物。山が迫る、自然豊かな空間に、異様な姿を見せつけます。

 これは、高速道路の、八王子ジャンクション。関東の道路網の、一つの要衝と言っても良いでしょう。

 歴史ある、甲州道中の頭上を覆う、現代の道の姿を見ていると、何かしら、不思議な気分に襲われます。

 

※裏高尾の集落。八王子ジャンクションは異様に見えます。