旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[甲州道中]44・・・小仏峠

 峠道

 

 相模の国の最後の宿場、小原宿(おばらじゅく)を過ぎた後、街道は、峠の道に向かいます。この先は、武蔵の国との国境、小仏峠が控えています。よく耳にするこの峠。時代劇でも時々描かれてきたように思います。また、司馬遼太郎の作品の、『街道をゆく』の第一巻には、作者自身が、江戸側から、峠に向かう光景が、描かれているのです。

 甲州道中随一の、名所と言える小仏峠。どのようなところなのか、期待を胸に、難所の道に挑みます。

 

 

 峠の道へ

 街道は、少しずつ高度を上げて、山の中に近づきます。やがて、上部には、中央高速自動車道路の高架橋。その橋脚の片隅には、時代を感じる石碑が置かれ、「右小仏峠 左小原宿 甲州道中板橋」の標柱がありました。

 かつては、この近くを流れる川に、板橋が架けられていたのでしょうか。その真相は分かりませんが、板橋という地名を見ると、そのような情景が浮かびます。  

 

※高速道路の高架橋下にある石碑など。

 この先は、見上げると、目がくらむような高架橋を潜り抜け、少しずつ、山の方へと向かいます。途中には、まばらに民家が見られるものの、次第に、木々が覆う、山道に近づきます。

 

※峠道に向かう街道。

 

 大規模工事

 やがて、民家が途切れた辺りには、大規模な工事現場が現れました。この工事、中央高速自動車道路の拡張事業ということで、現在の道路近くに、新しいルートの建設が行われている様子です。

 中央高速自動車道路の談合坂や、小仏トンネル辺りでは、週末には、よく渋滞が起こります。高速道路の拡張事業は、喫緊の課題となっているのでしょう。

 

 街道は、何回か、工事現場の近くを通って、峠道へと向かいます。

 

※高速道路の工事現場近くを通る街道。

 

 峠道の入り口へ

 街道は、舗装道路を辿りながら、森の中に入ります。その後、180度折り返す、山道へと進路を変えて、急峻な斜面の縁を進みます。

 

※180度折り返しのポイント。左から来た道を真っ直ぐ進まず、右側の道へと折り返します。

 

 折り返しの山道を、少し上ると、右側に、「甲州道中」の標柱と、「小仏峠 1.8Km」と記された、標識がありました。ここが、峠道の入口です。この先は、右方向に延びている、急な坂道に進みます。

 

※峠道の入口。

 

 峠道

 峠の道は、最初は、舗装された階段ですが、やがて、幅の狭い山道に変わります。道幅は、1mもあったでしょうか。かつては、もう少し整備されていたのでしょうが、今となっては、木々に覆われ、残された街道のスペースは、わずかしかありません。

 

※山道状の街道。

 

 街道は、急な土の坂道が、延々と続く状態です。右に左に進路を変えて、一気に標高を高めます。

 足元は、杉の根っこが盛り上がる、でこぼこ道も現れます。

 

※峠道の様子。

 

 坂道は、一時的に、緩やかになる場所もありますが、その先で、再び勾配を強めます。

 

※勾配が緩まった街道。

 

 峠へ

 私たちが、峠道の入口に立った時、時刻は、午前11時。そこから、1.8キロの山道を上っても、正午には、峠に着けるはずでした。

 ところが、やはり、難所の道。慣れない急な坂道は、容易に距離を稼げません。1時間が過ぎた時点で、まだ、上り坂は続いています。

 それでも、道の様子は変化が現れ、次第に、勾配も緩まってきた感じです。

 

※峠に近づきつつある街道。

 

 小仏峠

 坂道が緩やかになり、やがて、平坦な道に変わってくると、その先に、少し開けた空間が見えました。

 はやる気持ちで先に進むと、広場の入口辺りには、「甲州古道 小仏峠」の表示柱。ようやく、峠の場所に辿り着くことができました。

 

小仏峠の西の入口。

 

 小仏峠は、相模の国と武蔵の国の国境。その昔、東大寺の建立で有名な、行基上人が訪れて、峠に一寺を建てたとか。その時、そこに、小さな仏像を安置したのが、”小仏”の地名の謂れだということです。

 今は、寺院の跡はないものの、峠の隅に、可愛らしいお地蔵さんが置かれています。その他に、石碑などもありますが、向かって左に置かれているのは、三条実美(さんじょうさねとみ)が詠んだ歌碑。

 残念ながら、流ちょうな字体であり過ぎて、私には、読むことができません。辛うじて、最後に彫られた”実美”の文字だけが、判読できる状態です。

 

小仏峠の片隅に置かれたお地蔵さんと石碑など。

 

 峠の様子

 私たちは、小仏峠で小休止。本来なら、ここで昼食を取りたいところではあったのですが、生憎と、持ち合わせの食糧はありません。水分の補給だけで、済ますことになりました。

 計画では、先にあった小原の宿場で、食糧を調達するはずでした。ところが、小原では、お店はほとんどありません。それらしきお店があっても、閉店中。

 私たちは、止む無くそのまま、峠へと向かうことになったのです。 

 

※峠の様子。

 

 それはともかく、峠に置かれた、木の椅子に腰かけて休憩をしていると、次から次に、往き交う人の姿が見られます。

 どの方も、ハイキングの格好で、せっせと先を急いでいます。地図を確認したところ、小仏峠は、近隣の山へと向かう、交差点のような場所。北に向かうと、景信山(かげのぶやま)。南には、城山や高尾山へとつながります。

 多くの人が訪れる、峠の空気を堪能し、次の宿場に向かいます。