旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[東海道]73・・・蒲原宿から富士川の町へ

 富士川の町

 

 街道は、この先で、駿河湾に流れ注ぐ富士川を、どこかの場所で渡らなければなりません。富士川は、その延長は、大井川より短いものの、流域は、大井川の3倍です。甲斐の国から水を集めて、富士の裾野に達する川は、日本でも有数の河川です。

 街道は、富士川の河口を嫌い、3Kmほど上流の、川幅が少し狭くなった所を通ります。そのために、海の近くを通っていた道筋は、この後一気に、北方向の山の中へと向かうのです。街道が進む先は、富士川の西岸地域に起伏する丘陵地。その辺りは、かつての静岡県富士川町、今は富士市の領域です。

 小高い丘の町を通り抜け、富士川の渡しへと向かいます。

 

 

 本陣跡など

 蒲原(かんばら)の宿場では、まだこの先も、幾つかの歴史的な建物が見られます。

 その一つが、西本陣跡。板塀が街道沿いに延びていて、塀の向こうの庭木の緑や木造の門構えなど、奥ゆかしさが伝わります。

 かつては、この本陣から、東へ100mほど離れたところに、東本陣があったとのことですが、今はもう、その跡は見られません。

 

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※西本陣跡の板塀。

 

 西本陣跡の斜め前には、もう1軒、懐かしさを感じる建物がありました。ここは、かつては、旅籠「和泉屋」が営まれていたということです。今も、江戸時代の建築様式がそのまま残っているようで、間口の幅も、19世紀の中頃のまま、との説明書きがありました。

 

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※旅籠和泉屋跡。

 宿場町の街道は、小さな川をまたいだ後で、緩やかな曲線を描きます。その後、カーブの左側には、なまこ壁の、少し変わった住宅です。この建物は、”なまこ壁と「塗り家造り」の家”との表示があって、元は、佐野屋という商家だったということです。

 説明では、「塗り家造り」は防火効果が大きく、もともとは、城郭などに用いられていた技術とのこと。一般に広まったのは、江戸時代末期以降ということです。

 

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※左、蒲原宿の様子。右、なまこ壁の家。

 宿場の東部

 道沿いには、ところどころに、古い家屋や板塀などが見られます。蒲原宿も、東の端に近づきつつありますが、依然として、宿場町の懐かしい景色が続きます。下の写真の右奥の、渡辺家住宅には土蔵が残り、資料館として活用されているようです。

 

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※渡辺家前。

 

 宿場の町は、この先も、様々な表情を見せながら、左に迫る山の麓に近づきます。

 宿場の見所などを紹介する、写真の数々。あちこちに掲げられた説明板。蒲原宿の誇りを伝える工夫には、頭が下がる思いです。

 

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※宿場の保存の様子が窺える道筋。

 東木戸

 山の斜面が近づくと、やがて宿場の東の端、 東木戸の常夜灯が現れます。小さな三角地が坪庭のように整備され、木戸に関する説明書きや、宿場の案内板などが置かれています。

 蒲原宿に入る時、県道から北に向かう角地には、西木戸の表示がありました。そして、この位置が東木戸。かつては、蒲原の東西の木戸の位置には、本当の木戸がありました。常夜灯や木戸により、宿場の安全確保が図られていたのでしょう。

 

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※東木戸。

 

 富士川

 道は少しずつ、上り勾配が強まります。やがて、旧道が県道と合流する直前で、街道は、一気に北方向に向きを変え、急勾配の坂道に。

 道沿いには、急な坂にもかかわらず、斜面に民家が連なります。

 

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※左、東木戸から東に向かう街道。右、北向きに左折した後の坂道。

 

 急勾配の坂道が、ようやく緩やかになった辺りに来ると、家並は終わります。その先で、道は左方向の小さな橋へと向かうのです。

 この橋は、名神高速道路を跨ぐ橋。向かいの山の、斜面を横切る街道に導きます。

 

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東名高速道路の上を跨ぐ橋。

 

 富士山

 小さな橋に差しかかり、橋の下を窺うと、高速道路が弧を描くようにして、山の隙間を通っています。しばらく進んだその先から、右方向を眺めると、何と、そこには、富士山の絶景です。

 見事としか、言いようのないこの風景は、薩埵峠からの眺望と同様に、街道からしか味わえない、富士の絶景の一コマです。

 

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※高速道路と富士の絶景。

 

 橋を渡ると、山の斜面を削ったところに、街道がつながります。右下の東名高速道路に沿うように、山際の道は富士の方へと向かうのです。

 この先は、いよいよ、静岡市から富士市へと移ります。緩やかに、上り下りを繰り返す、丘陵地の中の集落は、富士山の雅な姿を眺めつつ、温暖な気候に包まれた、過ごしやすそうなところです。

 

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東名高速道路を跨いだ先の街道。

 丘陵地

 山際の道を通り過ぎると、集落が広がります。ただ、この辺りの集落は、旧来からの農村というよりも、新旧の住宅が混在したようなところです。小規模の、果樹や畑も点在し、おだやかに暮らせそうに感じます。

 勿論、富士山は、その姿を隠すことはありません。爽やかな空気を満喫しながら、富士川の町を進みます。

 

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※旧富士川町に入ったばかりの集落。

 やがて、街道は、住宅が密集した町の中へと入ります。道幅は狭いものの、環境は抜群のところだと思います。

 この辺りは、富士市中之郷と呼ばれる地域。丘陵地を覆うように広がる町は、まだしばらく続きます。

 

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※中之郷の家並と街道。