旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

巡り旅のスケッチ(四国巡拝)12・・・讃岐路(72番→71番)

 曼荼羅の世界

 

 曼荼羅(まんだら)は、密教との関りが深い仏教絵図として知られています。私たちが何気なく有名な寺院を訪れた時、たまに見かける古い絵で、中央に大日如来を配置して、その周りに何体かの(あるいは、数多くの)仏様が囲むような図柄です。

 これは、真理の世界を表しているのか、あるいは、真理を求めるための道具なのか、私には分かりません。それでも、真言密教にとっては、極めて重要な役割を持つ絵のようです。

 四国霊場の72番目の札所の寺院は、曼荼羅寺空海とのつながりを彷彿とさせる名前です。

 

 

 72番曼荼羅寺

 曼荼羅寺は、出釈迦寺とは目と鼻の先ほどの位置関係。その間隔は、数百メートルといったところです。

 出釈迦寺を出て、緩く屈曲した坂道を下り、T字路を右折したすぐ左手に駐車場がありました。砂利で敷かれた駐車場に車を置いて、細い道路脇にある仁王門へと進みます。

 

 この札所の辺りは、出釈迦寺のある山の傾斜地がなだらかになった地形のところ。ここから先は集落がつながります。山の方角を見渡すと、斜面の農地が点在し、その向こうには捨身ヶ嶽の伝説の舞台となった、我拝師山なども見えました。

 

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※仁王門。

 

 曼荼羅寺

 曼荼羅寺の仁王門には、「我拝師山 曼荼羅寺」の表札が掲げられています。捨身ヶ嶽の伝説の舞台である我拝師山が、この霊場山号となっているのです。

 前回紹介した出釈迦寺は、捨身ヶ嶽伝説に基づいて築かれた寺院ということですが、釈迦如来を本尊と仰ぐ出釈迦寺と、真言密教の祖である空海とのつながりを思うと、どうもしっくりとはいきません。私の勝手な想像では、むしろこの曼荼羅寺こそが、我拝師山の伝説とつながる古刹のような気がします。

 そんなことを想いつつ、仁王門をくぐって、真っ直ぐに続く参道を進みます。参道の正面が本堂で、左手手前に大師堂がありました。

 

 曼荼羅寺は、空海が唐から帰国後に伽藍の再整備を行って、持ち帰った曼荼羅の絵図を奉納されたことから、この名前が付けられたということです。今もその絵図が存在するのかどうかは分かりませんが、大日如来を本尊とするこの寺院は、まさに真言密教の古刹です。

 

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※境内の様子。正面が本堂。

 

 大日如来と不老松

 曼荼羅寺の境内は、それほど大きくありません。仁王門から中に入ると、境内のほとんどが見渡せる程度の敷地です。

 この境内の右奥に、大日如来の比較的新しい石像が置かれていて、さらにその奥に、小さな祠と「不老松」の石碑がありました。

 「不老松」は、大きな笠状に張り出した、美しい老松だったようですが、平成13年から14年にかけて、枯れてしまったということです。石碑の傍には、在りし日の不老松の写真と、解説を記した案内板がありました。 

 

 71番弥谷寺

 次は、曼荼羅寺を後にして、弥谷寺(いやだにじ)に向かいます。善通寺市との境界に立ちはだかる山を抜け、盆地のような地形をした三豊市(みとよし)に入ります。この辺りは、瀬戸内海に近いわりには、周囲が山で囲まれていて、海の香りを感じません。

 特に、弥谷寺は、瀬戸内の海岸からそそり立つ弥谷山の中腹にあり、まさに山の中の寺院です。

 

 駐車場は、境内へと上る入口のさらに下。そこから一段上がった石段の入口に向かいます。

 そこには、ちょっとした土産物店があり、その前からは境内とつなぐ輸送バスの拠点がありました。バス料金は、片道400円。往復では600円だったと思います。石段を自力で上ると、約530段の強行です。さて、どちらを選ぶかはその人次第。私たちは、敢えて苦難の道を選択です。

 

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※左、石段の入口。右、仁王門への階段。

 弥谷寺

 500段を超える階段は、結構きつい道中です。途中には、観音像や様々な石像などもありますが、ゆっくりと見ている余裕はありません。

 お堂が配置された境内に辿り着くには、最後に、朱塗りの手摺を配置した、煩悩を消す108段の階段が待ち受けます。

 

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※左、境内に続く階段の中腹。右、108段の階段。

 

 石段を上り詰めると、その左手が大師堂。そして、さらに上に進むと、ようやく本堂に行き着きます。本堂への途中には、岩盤を掘りぬいたような洞窟上の空間に、石像などが彫られていて、自然と一体化した真言密教の奥ゆかしさを感じます。

 

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※左、本堂。右、岩を掘りぬいた辺りに石像が林立します。

 

 弥谷寺は、崖地に築かれたような境内で、霊験あらたかな雰囲気の札所です。特に、石段をひとつずつ踏みしめて、ようやく本堂を目にした時の達成感は格別です。歩き遍路の人たちにとっては、「何をこの程度で」と思われるかも知れません。それでも、厳粛なお堂を見上げ、振り向いて三豊市の景観を見晴らすと、心も洗われるような気分です。

 

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 ※本堂近くから三豊市観音寺市方面を望む。奥の山並みは四国山地でしょうか。

 

 本堂の参拝後は、崖際に続く細い石段を下って、先ほどの大師堂へと向かいます。この霊場の大師堂は、珍しい構造で、靴を脱いで建物の中に入ります。木造の階段を上ってお堂に入ると、左手が納経所。大師堂は右手です。

 ここでは、弘法大師が祀られた本尊の前で正座して参拝です。正座をして参拝する形式は、88か所の中でもほとんどとないと言ってよいでしょう。幾つかの霊場で、お堂の中への立ち入りが許されているところはあったとしても、この形式はここだけだったような気がします。


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※大師堂への入口。

 
 下りの石段は快適です。重力に任せて、一気に駐車場へと下ります。

 次に目指すは、本山寺。そして、観音寺方面に向かいます。