リルーエットの風景
昨年6月*1、バンクーバーを訪れたとき、必ず行ってみたいところがありました。その土地の名前は、リルーエット。バンクーバーの北東に位置し、深い山間に佇む小さな町です。
この町は、20世紀の前半、苦学してカナダで医師となった、宮崎政次郎氏が活躍されたところです。”ドクター・ミヤザキ”と親しまれ、活躍された土地。今も、ドクターの偉業を称えて、診療所を兼ねた邸宅が、地域の人達によって大切に見守られているのです。
1号線を北へ
バンクーバーでレンタカーを借りて、一路北に向かいます。目的地のリルーエット(Lillooet)は、バンクーバーの北東、250Kmほど離れた山間の町。途中の目標は、スキー場で有名なウイスラーです。
フリーウエイの1号線が、海を見渡す99号線へと変わり、ハウ湾(Howe Sound)の奥深く、スコーミッシュの町を越えると、道は山の中に入ります。交通量はそれほどでもなく、気分の良いドライブです。*2
※バンクーバー市内。
ウイスラー
99号線が山の中に進んでいくと、町はほとんど見当たりません。ひたすら、針葉樹で覆われた山々を見ながら走ります。
バンクーバーを出て100Km余り。ようやく、ウイスラーのサインが現れました。ウイスラーは、日本でも有名なスキーリゾートです。さぞかし大きな街に違いないと思っていましたが、辺りは鬱蒼とした木々に覆われて、あたかも森の中の様子です。
99号線から右手にそれて、リゾート地の方向へ進んでいっても、それほど賑わいはありません。
様子が一変したのは、ホテルのような、大きな建物の地下駐車場に車を停めて、反対側の地上に出た時でした。そこは、突然リゾートの街。土産物店やレストランなど、お洒落な店が軒を連ね、休暇を楽しむ人達が、街歩きを楽しむ姿が見えました。
折しも、山には雲がかかり、雨模様。人出は、少ないものの、国際色豊かな顔ぶれです。
※左、ウイスラーの入口付近。中、メインストリート。右、リフト乗り場近く。
リルーエットへ
ウイスラーを後にして、さらに山の奥に進みます。行先はわかっていても、大陸の奥地に踏み込む感覚で、心細さが迫ります。
幾つかの小さな町を通過して、マウントクリーというところで、99号線は右折です。もう、この辺りになると、車の影はほとんど見られません。前も後ろも、一筋の道路が延びるだけ。自分たちの車だけが、静止した空間の中を突き進みます。
標高も次第に高まり、道路は崖道です。そそり立つ山の反対側は、深い谷。ところどころで、川の流れやダムの水面が見られます。
※山間の崖地に延びる99号線。
今にも崩れてきそうな崖地の道を、少しでも早く通り過ぎたい思いで、先を急ぎます。辺りは、雨模様ではないものの、どんよりとした天気です。高い山の頂は、白い雲に覆われています。
もう随分、リルーエットの町に近づいてきたか、と、思っていた時のこと。道路脇に”LiLLOOET”を示すモニュメントが現れました。大きな岩と材木で造られたモニュメント。自然の中で生きてきた、人々の生き方を誇示しているようにも映ります。
※リルーエット入口にあるモニュメント。
このモニュメントを通り過ぎ、下り坂を進んでいくと、左前方にリルーエットの町が見えてきます。小さな橋を渡ったら、99号線から左にそれて、街中に入る坂道に。
ウイスラーを出て、約2時間半。ようやく目指す町に到着です。
リルーエットの概要
リルーエットは、カナダの奥地から流れる、フレーザー川の中流域にある町です。河岸段丘のような、川から一段高いところにできた台地に町が築かれています。
元々、リルーエット族という先住の人々が入植し、その後、ゴールドラッシュなどで人口が膨れ上がっていったとのこと。1860年前後には、北米大陸の西部地方では、サンフランシスコに次ぐような人口を擁していたようです。*3
リルーエットには、今も先住民族の末裔が、数多く暮らしておられます。
この町は、今では、往時の繁栄は見られませんが、自然を求めて訪れる人々の、人気の土地。トレッキングや釣り、キャンプなど、カナダの人達が大好きな、大自然を満喫できるエリアです。
※リルーエットのメインストリート。
リルーエットとドクター・ミヤザキ
ドクター・ミヤザキ*4は、10代半ばに、日本からカナダのバンクーバーに渡った日系カナダ人です。苦学して医師となり、リルーエットを拠点として、過酷な自然条件の中で、地域医療の提供に尽力されました。
後に、カナダ勲章も授与*5されたドクター・ミヤザキ。今もリルーエットの人々に愛され、心の拠りどころになっているようです。
地元を紹介するガイドブックの中にも、ドクターに関する記事がありました。リルーエットの歴史を語るとき、無くてはならない存在に違いありません。
※左、ガイドブックの表紙。右、ガイドブック中、歴史がつづられたページ。
リルーエットとドクター・ミヤザキ。今回の記事は、その導入です。次回以降、さらに詳しくお伝えしたいと思います。