旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

出会い旅のスケッチ3・・・小説「石狩川」の風景

 トウベツへの想い

 

 学生の頃、「石狩川」 という小説があることは、何かで学んだ気がします。それでも、これまで、その小説に出会ったことはなく、私の記憶からは、はるか彼方に消え去っていました。

 ところが昨年の夏、ふとしたことで、この小説に出会うことになりました。読み進めていくと、次第に、北海道開拓の苦難の物語に引き込まれていったのです。

 この小説は、トウベツという地を開拓するまでの物語。今では想像もつかない、過酷な道を切り拓く人々の姿が、脈々と描かれています。

 今回、北海道を訪れるに当たって、何としても立ち寄りたい土地でした。

 

 

 千歳空港から当別

 網走で、叔父の遺影と出会った後、私たちは、女満別空港から千歳空港に向かいました。北海道では、この日、寒気が流れ込み、欠航の可能性も予告されていましたが、1時間遅れで何とか出発。無事千歳空港に降り立つことができました。

 

 千歳空港からは、レンタカーで移動です。目的地は、千歳の北、50Kmほどのところにある、当別町*1この町は、小説「石狩川」の登場人物たちが、夢を託した開拓の土地。一度、機会があれば訪れてみたい町でした。

 

 千歳から当別までは、農地が広がる道を進みます。交通量はあまりなく、路上には雪もそれほどありません。ところどころに町や集落なども現れて、それぞれの町の中心は交差点。各方面へと延びる道が交わっています。

 

 江別市で、石狩川を越え当別へ。町に入る直前で、当別川を渡ります。雪の様子は、この辺りから一転し、途端に白銀の世界に変わります。路上も真っ白で、町中の道は圧雪状態。辺りはもう、雪国です。

 

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当別の町中。 

 

 小説「石狩川

 「石狩川」は、石狩川流域の土地、トウベツの、開拓に至るまでの苦難の道筋が描かれた小説です。しかも、その開拓を進めた人達は、江戸時代の一つの藩の藩主と家臣たち。実話とは言え、どれほど過酷で切羽詰まったサバイバルの挑戦であったのか、想像を絶する、生存への戦いの物語です。

 

<あらすじ>

 この小説のモデルは、かの有名な、伊達政宗を始祖とする、仙台藩の分家、岩出山伊達家(いわでやま だてけ)の人達です。幕末の戊辰戦争で、幕府側につき、敗北。領地を没収された伊達邦直(小説では伊達邦夷)とその家臣たちが北海道に渡ります。

 彼らの移住先は、石狩川の河口北側にあるシップというところ。ところが、そこは、自然厳しい日本海に面した土地でした。生き延びていくために、そこから、山を越えた東に広がる肥沃な土地、トウベツの開拓を目指すことに。

 ただ、この事業を成功させるためには、トウベツの土地を見極めること、そして、北海道開拓使の許可を得るという難関が待ち受けていました。

  この難関を乗り越える牽引役となったのが、岩出山伊達家の家老、吾妻謙(小説では、阿賀妻謙)。実務一切を指揮し、開拓使とも直談判するなど、精力的に働きます。幾人もの部下を失い、新政府の見えない圧力に耐えながら、藩の人々を導きます。その結果、遂に、トウベツの地に入植を果たすことができたのです。

 「石狩川」は、過酷な自然と制度を乗り越える人達の姿を、見事に描いた小説です。

 

 

 伊達記念館

 小説を読んだ後、当別町について少し調べてみたところ、街中に、伊達記念館と伊達邸別館があることを知りました。そこには、明治期に建てられた伊達家の屋敷とともに、開拓に関する資料なども見られるとのこと。

 機会があれば、訪れたいと思っていた中で、今回の北海道の訪問です。冬の間は、記念館などは休館ということですが、この機を逃しては何時訪れることができるか分かりません。

 駆り立てられるように、当別町を訪問したのです。

 

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※左、記念館などの入口。右、伊達邸別館。

 

 雪が積もる記念館周辺は、閑散とした雰囲気です。新雪を踏みつけて奥に進むと、やはり施設は休館中。それでも、窓越しに伊達邸別館の中を拝見することができました。 

 思いのほか、小さな施設でありながら、ここが開拓の拠点だったのでしょうか。開拓の様子は、小説には出てきませんが、そこに至るまでの厳しい道のりが、瞼に浮かんでくるようです。*2

 

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※左、伊達邸。中、伊達邸別館の遠景。右、記念館の玄関。

 

 本庄陸男

  小説「石狩川」は、当別町出身の作家、本庄陸男(ほんじょうむつお)の作品です。

作者は、この小説の”あとがき”で、「一先ず作者はこれを『石狩川』の初編として上梓(じょうし)し、つづいて、これら移住士族のその後の過程を書き進める予定である。(昭和14年4月)」と記しています。

 

 私は、「石狩川」を読み終えた後、すぐに、続編が読みたくて、色々探してみましたが、それらしき作品は見当たりません。

 そこで、本庄陸男について調べると、彼は、昭和14年7月に、結核のため、わずか34歳で亡くなっていたのです。

 昭和14年の4月に「石狩川」を書き終えて、3月の後のことでした。

 

 幕府政治から、新政府に移行して、急速に開拓が進められた北海道。そこには、多くの人達の夢と苦難が交錯していたことでしょう。

 

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※北海道旧庁舎。
 

     一編の小説との出会いから、これまで知ることのなかった世界を見るということは、よくあることかも知れません。それでも、多くの事を教えてくれた「石狩川」。いつまでも心に残る名作です。

 

 

*1:札幌からは、北東約30Kmに位置する町です。

*2:北海道には、室蘭市の西に伊達市というところがあります。この市も、名前の通り、伊達家とゆかりがあるようです。当別の開拓は、伊達邦直。伊達市は、邦直の弟である、伊達邦成によるものです。