旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ8・・・中山道、鳥居峠と奈良井宿

鳥居峠から奈良井宿

 

 木曽路は、全体として山の中を縫うように延びています。ところが、その大半は山あいの川伝いの道であり、急峻な起伏はそれほど多くありません。島崎藤村の「夜明け前」の冒頭でも、「木曽路はすべて山の中である。」に続く文章は、「あるところは‥崖の道」「あるところは‥木曽川の岸」「あるところは‥谷の入口」と綴られているように、木曽路木曽川と切っても切れない街道です。

 このような木曽路の中で、難所と呼ばれるところは、馬籠峠と鳥居峠。私たちにとって、木曽路最後の難関、鳥居峠に挑戦です。

 

 鳥居峠越え

 藪原の宿場から、鳥居峠方面を印す案内版に従って、脇道のような坂道に入ります。道はすぐに中央線の架線をくぐり、さらに急な坂道に。途中、飛騨街道との追分の案内板が目に入ります。中山道と飛騨街道がこの辺りで交わっていたということですが、詳しくは分かりません。私たちは一路、鳥居峠を目指しました。

 中山道は、急な傾斜地に貼り付く住宅地の中を、ゆるく曲がりながら上へ上へと続いています。しばらくこの坂道を進むと、少し広めの車道に出てきます。そして、車道を横切るといよいよ山道です。

 

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※左、追分の案内版。右、鳥居峠への入口。

 山道に入ってしばらくは、緩やかな坂道となります。最初は舗装道ですが、土の道になり、草の道になって山の中に進んでいきます。途中には、つづら折れの登り道や石畳などもあり、久しぶりに山中の街道の雰囲気を味わいました。

 

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※石畳の街道。

 

 峠に近づくと、街道からは藪原の町が俯瞰できます。山深い木曽の谷の宿場町。遠方左に見えるのは、御嶽山でしょうか。木曽の山々の懐に抱かれたような宿場の風景を眺めていると、不思議と心が落ち着きます。

 

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※藪原の町。

 

  もう間もなく峠かと思われる辺りには、少しだけ山が開けた場所がありました。古い木のベンチなども置かれていて、小休止です。

 谷と反対方向に振り向くと、街道とは別に、尾根に上る階段が見えます。何かあるのかと思い上って行くと、鳥居峠の石碑や、幾つかの石碑*1が並んでいました。

 

 再び坂道の街道を上って行くと、しばらくして、左手上に御嶽神社が見えてきます。その後、少しだけ崖路を進むと、栃の木の林です。この辺りの道はもう平坦になっています。やがて車道を横切り、切通しのような道に。*2

 間もなく、右手に峰の茶屋が現れました。どうもここが鳥居峠になるようです。

 

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※左、峠前の尾根に置かれた石碑。右、峰の茶屋。

 

 峠から奈良井宿へ 

 藪原宿を出て峠まで、1時間余りの道のりでした。当初は、もっと険しい道中かと身構えていましたが、案外気分よく歩くことができました。

 峰の茶屋を過ぎると、街道はひたすら下り坂です。道は落ち葉に覆われ、狭い崖道、ジグザグに下る急坂などが続きます。森の中を、それこそ滑るように谷に向かって降りていきます。

 降りてもおりても、奈良井の町は見えてきません。藪原宿から峠までの道のりよりも、遥かに長く急な坂道を下り続けます。

 私たちは江戸に向かって歩いて行きますが、これが逆であったらと思うと、ゾッとするような坂道です。藪原と奈良井の標高に、随分と差があるに違いありません。奈良井から挑む鳥居峠は、まさに木曽路一の難所なのでしょう。

 

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奈良井宿への下り坂。もう間もなく宿場です。

 

 34番奈良井宿

 峰の茶屋を出てかれこれ45分。いよいよ奈良井の宿場です。一気に坂を駆け下りたので、この時間で着くことができましたが、逆に進むと、倍近くの時間がかかるのではないでしょうか。藪原宿から5.5Kmの峠越え。休憩を挟んで2時間ほどの道のりでした。

 

 山道の坂を降りて、宿場の入口にさしかかると、左手に鎮神社(しずめじんじゃ)と高札場が見えてきます。そして、奈良井の宿場町です。

 奈良井宿は、妻籠宿と同様、伝統的な宿場の街並みをよく残しています。ただ、よく見ると、建物は妻籠とは少し形が異なっています。二階部分が街道の方にせり出す構造で、宿場町の雰囲気は妻籠と似通ってはいても、奈良井宿の景色は独特なものを感じます。

 

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※左、鎮神社と奈良井宿南入口。中と右、宿場町の様子。

 

 この宿場にはまた、多くの観光客がつめかけています。街道沿いの歴史ある建物は、土産物店や喫茶店、食堂などとして活用され、多くの客で賑わっていました。また、民宿や旅館も点在し、宿場町の旅籠の様子をうかがい知ることもできます。

 観光客の多くは、国道19号沿いの駐車場を利用されています。駐車場からは、奈良井川に架かる橋を渡り、中央線の線路をくぐる地下道を伝って、町の北側から宿場に入ります。

 奈良井にはまた、中央線の駅が宿場町の北のはずれにあります。塩尻駅から30分ほどで着けるので、電車での訪問も便利です。

 

 私たちはこの日、朝9時過ぎに宮ノ腰駅を出て、14時頃奈良井宿に着きました。峠越えを含めて13Km。距離にするとそれほどでもありませんが、足にはそれでも疲労感が。この日は奈良井の宿場を散策し、宿場内の”かとう民宿”で宿をとらせていただきました。


 民宿では、江戸から都を目指して街道歩きをされているご夫婦とお会いすることができました。食事の時、互いに情報交換ができ、良い思い出となりました。

*1:芭蕉の句碑など、幾つもの石碑があったように思います。

*2:車道方向には山に入る道も見えましたが、古道だったかも知れません。そこには行かず、切通しを進みました。