木曽路へ
美濃路の後半は、厳しい峠道が続きます。そして、さらにその先は、「すべて山の中である」と語られる、木曽路です。
峠道は、険しい道ではあるものの、それぞれに趣がある山道です。往時の街道の面影が良く残り、中山道の醍醐味が味わえるところです。
十三峠(じゅうさんとうげ)
美濃の山の奥深く、ひっそりと佇む、47番大湫宿(おおくてじゅく)。この宿場を発ったすぐ先に、十三峠の西の入口を示す道標が構えます。十三峠は、ここから先、3里半もの長丁場の始まりです。
大湫宿の休憩所でいただいた資料には、「『十三峠におまけが七つ』と言われ、アップダウンが20以上ある中山道の難所のひとつ」と記されているように、起伏を繰り返して、街道は続きます。
本来、この名の由来は、峠が13か所あるからだ、とされているようですが、実際には資料の通り、沢山のおまけがあるようです。ただ、数を数えながら歩けるほど、たやすい道ではありません。気力と体力を振り絞り、一歩ずつ、恵那市にある大井の宿場を目指します。
※大湫宿のすぐ先。十三峠の西の入口。
この峠道は、幾つのも山を縫うように続いていて、周りの風景も次々と変化していきます。ゴルフ場や林間の道、細い崖路、石畳風の急な坂。ところどころに、小さな集落もあって、畑地の脇をゆっくりと通り抜ける道などは、一息つけるところです。
途中、深萱という集落があり、そこには、トイレや休憩所がありました。ただ、大湫宿から続くこの道は、すべての峠を越えるまで、途中で店や自動販売機はありません。水分補給もままならず、必ず、軽食と水は持参して臨まなければなりません。
※深萱の集落。写真の右側にトイレ等があります。
深萱から先は、再び厳しい坂道に入ります。石畳のような、自然の石が連なる道や、幅の狭い山道など、次々と姿を変える街道です。農地や集落が現れて、下り坂が続いてくると、次第に緩やかな森の中の道へと入ります。
槇ヶ根の立場跡を通り過ぎ、西行の森の公園が現れたら、いよいよ十三峠の終わりです。その先の、石畳の坂道を下ったところに、「是より西 十三峠」の道標が。そして、そのすぐ脇に、飲み物や食料の持参を促す注意看板がありました。
十三峠は、長い道のり。幾つもの峠が連なるこの道筋は、中山道の特色ある峠道のひとつです。*1
※十三峠の東の入口。
馬籠峠(まごめとうげ)
次は、馬籠峠です。馬籠峠の様子については、中山道総集編の2回目のブログに記したとおり、中山道随一の人気の区間。海外からもたくさんの観光客が訪れるところです。
美濃路の最後、落合の石畳を踏みしめて、新茶屋で木曽路に入る、長い長い上り一筋の峠道。43番馬籠宿を通過して、馬籠峠に至るまで、標高は上がり続けます。
尾根に連なる、馬籠の宿場を通り抜けた町はずれ、峠に向う展望所からは、遠くに美濃の山並みが見渡せます。
峠へと向かう道筋は、木々が茂る山の中。時に民家の脇を擦り抜けながら、ひたすら坂道を上ります。やがて、妻籠や南木曽駅に続く自動車道に合流すると、その先が馬籠峠です。
峠には、小さな広場とともに、休憩所を兼ねたお店もあって、一息つけるところです。
※左、馬籠宿のはずれにある展望所から美濃の山並みを望みます。右、馬籠峠。
馬籠峠は、このように、車でも訪れることができる峠です。先に記した、琵琶峠や十三峠とは趣を異にした、開けた感じの峠です。
峠を越えると、街道は、一気に山道に変わります。当然ながら、長く続く下り坂。妻籠宿のすぐ手前、間の宿と言われる、大妻籠の集落へと向かいます。
馬籠宿から妻籠宿に至る峠道。この区間は、たくさんの観光客が往き交います。時に、心細くなるような、人けのない峠道とは異なって、楽しく歩けるところです。
※妻籠へと向かう下り道。一石栃白木改番所跡。(「中山道総集編2」を参照下さい。)
今回紹介する最後の峠は、35番藪原宿と34番奈良井宿を隔てる鳥居峠。木曽川と奈良井川の流れを分ける、分水嶺の連峰の尾根筋にある峠です。木曽路の中でも、最も標高が高いと言われるところで、険しい峠道のひとつです。
峠をまたぐ街道は、つづら折れの急坂が続き、中山道の中でも屈指の難所と言われています。都から江戸方面に向かって進むとき、この峠を越えれば、信濃の国が近づきます。
※左、峠道から藪原の宿場を俯瞰。右、鳥居峠の石碑。
峠道は、急勾配が続くものの、藪原方面の景色は絶景です。峠の辺りは、幾つもの石碑が建てられて、意外と、平坦な広場のようなところも見られます。街道も緩やかで、御嶽神社や峰の茶屋の建物などがありました。
難所と言われる峠越え。かなり厳しい道と覚悟して挑んだものの、藪原から峠までは、思いのほか、時間をかけずに辿り着くことができました。
※峰の茶屋と奈良井方面に下る峠道。
峰の茶屋からその先は、峠の下り道。坂を下り切ったところに控える、奈良井の宿場を目指します。
この下り道は、結構な急坂です。しかも、延々と続く坂道は、それこそつづら折れ。右に左に蛇行を繰り返しながら、続きます。いつになったら集落が現れるのか、不安がよぎるほどの長さです。
この坂道を、江戸方面から上るには、余程の覚悟が必要で、難所と言われる所以です。
鳥居峠の麓には、江戸時代の姿をそのまま残しているような、奈良井の宿場が佇みます。鳥居峠と奈良井宿。往時の中山道の様子がそのまま伝わるところです。
鳥居峠は、JR中央本線の藪原駅と奈良井駅の間にあって、6~7Kmのハイキングコースとしても楽しめます。少し、準備をして臨むのであれば、それこそ絶好の峠道歩きの区間でしょう。