旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[東海道]84・・・箱根の坂道

 続く坂道

 

 三島宿と箱根宿の間の距離は、およそ15Kmの行程です。「箱根八里は馬でも越すが」と言われてきたのは、その通り。それでも、延々と続く上り坂は、並大抵ではありません。山道に慣れない体に鞭を打ち、坂道をひたすら歩き続けます。

 ただ、救われるのは、坂道の表情が変わること。道は単調な姿ではなく、坂ごとに、その装いを新たにして、旅人を迎えます。次から次へと襲いかかる箱根坂。気持ちを切り替え進みます。

 

 

 塚原新田

 旧道に入った街道は、塚原新田という町の、中央付近を縦断します。道は綺麗に舗装され、歩きやすそうな坂道ですが、勾配がかなりある他、真っ直ぐな直線道路で、思ったよりもきつく感じてしまいます。

 

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※塚田新田の坂道。

 

 この坂道が、数百メートル続いた後で、国道1号線に再接近。僅かの間、国道と旧道が隣り合わせで進みます。

 

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※左、国道と平行する街道。右、中央やや左に見える地道の坂道が臼転坂。

 

 臼転坂

 その先で、街道は山道に入ります。次に迎える坂道は、臼転坂と呼ばれています。牛がこの坂で転がったとか、臼を転がしたからなどと言われているようですが、その真意は不明です。比較的緩やかな勾配の山道は、少し広い道幅で、昔のままの道筋が残っているように感じます。

 

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※臼転坂。

 やがて、山道は、舗装道路に合流します。この道は、旧国道の道筋かも知れません。この先が、市山新田と呼ばれる集落で、道沿いには、比較的新しい住宅が並びます。

 私たちは、春の光を浴びながら、箱根の道を進みます。

 

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※舗装道路との合流点。

 山新

 市山新田の集落の入口には、よく手入れされた、2列の六地蔵がありました。何とも愛らしいそのお姿を見た時は、思わず、掌を合わせたものでした。

 集落を進んで行くと、法善寺というお寺の表示です。そして、その先で、道は2手に分かれます。

 

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※左、六地蔵。右、法善寺の案内表示。

 

 街道は、この、”市の山新田”の交差点を左の方に入ります。そして、そのすぐ後で、右上方にある、階段を上ることになるのです。

 旧国道と思える道は、交差点から右方向に向かいます。私たちが進む左の道は、その先で、ゴルフ場や農場などにつながっているようです。

 

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※市の山新田の交差点。

 

 題目坂

 交差点から先の道は、一旦、少しだけ下ります。その後、道路が左に迂回する寸前で、右方向の階段を上るのです。

 この位置には、親切な標識があるために、道を迷うことはありません。指示通り、急な階段を進みます。

 階段の途中にあった標識は、”題目坂”との表示です。この急な石段と、その先の集落に続く坂道が、題目坂だと思います。後ほど、少し触れますが、次の三ツ谷新田の集落には、松雲寺という日蓮宗の寺院があるのです。「妙法蓮華経」とお唱えする、日蓮宗の”題目”に、この坂の由来があるのでしょう。

 階段の終わりがけには、先ほどの法善寺に由来する、お堂跡の石標などがありました。そして、その先に見えてきたのが、小学校。街道は、小学校のグラウンドに沿うように、左方向に進みます。

 

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※左、題目坂への階段。右、階段の上部。

 

 三ツ谷新田

 小学校のグラウンドを過ぎた先で、街道は、再び、旧国道と合流します。この辺りの左手は、箱根の裾野が広がって、眺望の良いところです。

 しばらく進むと、三ツ谷新田の集落に入ります。坂道に沿うように集落が延びていて、そこそこの規模を誇っています。かつては、街道の休憩地として、位置付けられていたのかも知れません。

 

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※三ツ谷新田の集落に向かう街道。

 集落の途中には、先ほど触れた、松雲寺という、由緒ありそうなお寺がありました。日蓮宗のこの寺は、大名たちの休憩所として利用されていたということです。

 

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※松雲寺。

 

 こわめし坂へ

 街道は、三ツ谷新田の集落を抜けた先で、旧国道から左にそれて、森の中へと向かいます。この道は、旧道ですが、舗装された道路です。木々が覆う細い道を山に向かって進みます。

 

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※左、旧国道がカーブする辺りを、左前方の旧道に進みます。右、旧道の入り口辺り。

 街道は、この先で、次第に勾配を増していき、急坂へと変わります。歩く速度は、極端に鈍くなり、休憩の回数が重なります。

 この坂道は、下長坂と言うそうですが、別名、”こわめし坂”と呼ばれています。道沿いにあった案内板には、「急勾配で、背に負った米も人の汗や蒸気で蒸されて、ついに強飯(こわめし)のようになるからだという。」と、書かれています。

 

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※こわめし坂の様子。

 

 この急坂の途中にも、笹原新田という集落があり、民家が軒を連ねています。やがて、街道は、左右につながる舗装道路に出くわします。この舗装道路を左に向かうと、三島スカイウォークに行けそうですが、多くの人は、もう少し先の方からアクセスすることになるようです。

 

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※舗装道路が横切る交差点辺り。

 

 笹原一里塚

 舗装道路を横切って、真っすぐに進んで行くと、その先は、美しく修景された、石畳の道に入ります。

 相変わらずの坂道ですが、勾配は緩くなり、心地よく歩ける区間です。

 

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※石畳で修景された笹原の街道。

 

 やがて、街道の右側には、笹原の一里塚の案内です。木々が茂る斜面にあるため、塚の姿は鮮明ではありません。周囲の景色に同化され、静かに道往く人を見守っている様子です。

 街道の左手は、一気に空間が開けます。そして、その先には、三島スカイウォークの施設が見えました。

 箱根の坂の、中間辺りに設置されたこの施設。坂を上る私たちが、昼食をとる場所として、目標にしていた地点です。朝の10時に三嶋大社を出発し、スカイウォークに到着したのが、丁度、正午のことでした。

 この先、峠まではあと半分、と、ホッとした気分になったのですが、実はこの先、まだまだ厳しい急坂が、延々と続くということを、この時点では知る由もありません。

 スカイウォークのベンチに腰掛け、箱根のお湯に浸かる気分を思い描いて、気分よく、昼食のおにぎりを頬張ります。

 

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※左、笹原の一里塚。右、スカイウォークへの道。