旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[東海道]70・・・由比宿へ

 街道の風景

 

 薩埵峠を下った先は、かつての街道の面影がよく残る道筋が続きます。崖地の下の僅かな隙間に、街道と家並が、細長く伸びて行き、16番由比の宿場へとつながります。

 駿河の国の街道は、その多くは、市街地の中ですが、ここから先、富士川までの間の道は、ところどころに、歴史が香る風景を残します。駿河湾を右に見ながら、富士山も、時折顔を覗かせる、風光明媚な景観と、歴史が漂う町並みは、東海道の醍醐味の一つです。

 

 

 みかん畑

 峠からの下り道は、アスファルトで舗装された道路です。山の傾斜に張り付いたこの道は、みかん農家の方達の、重要な作業用道路でもあるのでしょう。時折、荷台に、作業道具などを載せている、軽トラックなどとすれ違い、みかん畑に囲まれた、急な坂道を下ります。

 

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※舗装された下り道の街道。

 

 西倉沢

 急坂を下った先は、古くからの集落です。これまでの坂道と、変わらない道幅の、狭い通りを歩きます。

 家並みは、新旧まばらな状態ですが、瓦屋根の軒を配した、古くからの民家もあって、趣ある景観が続きます。

 

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※峠道が終わり、集落に入ります。

 

 所々に山から下る、細い流れに架かった橋は、その小さな欄干に、擬木のような修景が施され、街道の雰囲気を盛り上げます。

 このような、心地よい道のりが続く集落は、西倉沢と呼ばれています。この集落は、かつては、間の宿(あいのしゅく)の位置づけでした。宿場と宿場の間に位置し、休憩所の役割を有していたところです。

 

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※西倉沢の集落。

 

 西倉沢の本陣

 集落を少し進むと、右手には、歴史を感じる家屋風の建物がありました。この建物は、江戸時代の建築というよりも、もう少し、新しく感じます。ただ、道に面した、幅広の窓の前には、格子の木枠が全面にはめ込まれ、街道情緒を盛り上げます。

 建物の軒先に掛けられた説明板には、この場所に、重要な施設があったことを伝えています。

 

 「西倉沢は、薩埵峠の東坂登り口に当たる「間の宿」で十軒ばかりの休み茶屋があって、旅人はここでお茶を飲み、疲れをいやし、駿河湾の風景を賞で旅立っていきました。

 ここ川島家は、江戸時代慶長から天保年間凡そ二百三十年間代々川島勘兵衛を名のり、間の宿の中心をなし、大名もここで休憩したので村では本陣と呼ばれ、西倉沢村名主もつとめた旧家です。」

 

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※西倉沢本陣の説明板。

 小池邸

 西倉沢の集落を後にして、左手に崖地を見ながら進んで行くと、再び、新たな集落に入ります。この辺りは、もう由比なのかも分かりませんが、宿場町はまだ先です。

 それでも、この集落は、街道の姿をよく残しています。特に、小池邸と称される、名主の館の辺りには、幾つかの由緒ありそうな建物が並びます。

 

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※小池邸の玄関付近。

 

 小池邸の建物は、よく保存され、しっかりと管理されている様子です。建物の中を覗くと、古い写真などが展示され、往時の様子が伝わります。案内頂いた方によると、この近くで、かつて大きな地滑りがあり、大変な被害を受けたということです。

 また、庭を案内頂いて、手水の水が地下に落ち、琴の音のような響きを発する、珍しい、”水琴窟”を見せていただくことができました。

 

 この施設、建物内は一般に開放されて、一息つく場所としても、貴重な施設だと思います。

 

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※水琴窟。

 由比駅

 この先、民家が隙間なく建ち並ぶ、細い道を進みます。

 やがて、坂道を下ったところで、道は少し広がって、片道1車線の普通の道に合流します。この辺りは、何となく、空が開けた感じの場所で、左に迫っていた崖は、少し奥に後退した感じです。

 この道の右前方には、JR東海道本線の由比の駅。駅の東の道路には、桜エビのゲートです。

 由比と言えば、桜エビ。駅前の看板には、桜エビを扱うお店の広告がひしめきます。

 

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 由比宿へ

 駅前の道を通り過ぎたその先は、木造の家などが建ち並ぶ 、昭和の香りが感じられる町並みです。あちこちで、桜エビを販売するお店があって、訪れた人達に、ほのかな旅情を届けます。

 由比の宿場は、おそらくは、この辺りから始まるのでは、と、思えるような家並みが続きます。ただ、後に、由比宿の案内板を確認すると、宿場町は、この先の由比川を越えた辺りから。今歩いている道筋は、宿場の一つ手前の集落です。

 それでも、懐かしさを感じるような町を眺めて、あと少し、東へと向かいます。

 

 この先は、峠を越えて、ようやくたどり着いた宿場町。江戸時代の初めの頃に、僅かながらも、幕府に対し、抗いを試みた、由井正雪の故郷です。

 

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由比駅から東に進んだところにある町並。桜エビの販売店などもあり、懐かしさを感じる家並みです。