旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[東海道]58・・・岡部宿へ

 近づく山々

 

 駿河の国の中心は、今の静岡市、かつての駿府(すんぷ)の城下です。この城下町の真っ只中に、府中の宿場が設けられ、町人と旅人たちが入り混じる、賑わいの町ができました。

 街道は、府中の宿場を目指しつつ、一路東に向かいます。

 ただ、この先の街道は、少し難渋する区間です。山並が、海岸までせり出して、道の行手を阻みます。そのために、山間のわずかな隙間を通過する、宇津ノ谷峠(うつのやとうげ)を越えなければなりません。

 岡部の宿場が近づくと、峠を抱き込む、山々の壁が迫ります。

 

 

 岡部への道

 岡部の宿場は、藤枝の市域ではありますが、海に面した焼津市の隣接地。JRの駅でいうと、焼津駅が最寄り駅になるのだと思います。

 街道は、焼津市の西の縁を辿るように、北東の山間へと向かいます。

 

 葉梨川を越えてから、しばらくの間、旧道を進んだ街道は、やがて、2つの県道が交差する、仮宿の交差点に行き着きます。この交差点は、交通量が激しくて、歩道橋を利用しなければなりません。

 交差点を、右手前から左前方へと向かうのが、街道のルートになっていて、その通りに結ばれた歩道橋の道筋は、街道を意識してのものなのか。上手く設計された施設です。

 

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※仮宿の交差点辺り。左の写真の右橋から階段を上り、中央奥の階段を下ります。

 

 松並木

 仮宿の歩道橋を下りた先には、右側の県道(おそらく、以前はこの道が国道1号線だったのでしょう。)と、左側の旧道が、ほぼ並行して走ります。当然ではありますが、街道は、左手の旧道です。この先は、松並木が美しい、落ち着いた雰囲気の道に入ります。

 松並木の植栽のところには、「従是東巌村領横内」(これよりひがし いわむらりょうよこうち)と書かれた木柱などが立てられていて、街道の保存整備が図られている様子です。

 

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岩村領横内の松並木道。

 

 横内

 松並木の街道と、そこを挟んだ周辺は、今は、藤枝市の横内と呼ばれる地域す。”岩村領”ということで、何か謂れがあるのでしょうか。

 それとなく調べてみると、実はこの横内地区は、元は、美濃の国の岩村藩の飛び地だったということです。岩村と言えば、岐阜県恵那市の山中にある城下町。かつて、NHKの朝のドラマ、「半分、青い」のロケ地になったところです。

 そんな遠くの大名が、この藤枝の一角を治めていたとは、驚きでしかありません。

 

 横内を通り過ぎると、21番岡部の宿場は、もう目前のところです。

 

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※左、岩村の城下町(岐阜県恵那市)。右、岩村城の入り口。(かつて私が岩村を訪れた時に撮った写真です。)

 

 岡部宿

 松並木を通り過ぎ、横内の集落を抜け出たところを左に進むと、国道1号線の高架です。その下をくぐり抜けたところには、岡部宿と刻まれた石の標示と、常夜灯がありました。

 この辺りから、岡部宿になるのでしょう。ただ、道筋は、幹線道路の県道です。周囲には、宿場町の面影はありません。

 

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※国道の高架を抜けたところに置かれている石碑。

 

 岡部の宿場に入ったところで、街道は、県道と合流です。静岡市方面とをつなぐこの道は、よく道路整備がされていて、交通量もそこそこです。

 今は、道幅も拡張されて、道沿いに、往時の建物はありません。沿道には、倉庫や事業所などが建ち並び、ある種、工業団地の様相です。

 それでも、道筋には松の並木が保存され、辛うじて、ここが街道であった証を残しています。

 

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※岡部宿の西の入り口辺りの県道。

 

 岡部支所

 県道と合流した街道は、緩やかな上り坂の状態で、山の谷間へと向かいます。松の並木を左に見ながら、真っすぐに進んでいくと、やがて右方向に、少し弓なりに湾曲する道へと変わります。

 その曲線の付近には、藤枝市岡部支所の建物や、バスの停留所などがありました。この辺りが、今の岡部の中心地。宿場観光の起点とも言えるようなところです。

 

 私たちの街道歩きは、この日、この岡部支所で終了です。藤枝の駅近くから、わずか8Kmほどの道のりでしたが、この先の峠越えの行程は、2か月後に残すことになりました。

 

 2か月後

 2か月後、焼津駅からバスを使って岡部支所に降り立ったのは、昨年(2020年)の夏真っ盛りの頃でした。

 暑い中、再び街道歩きをしたものの、この時は、所用のついでに立ち寄ったまで。宇津ノ谷峠を克服し、府中宿に入るのが目的です。

 わずか1日の行程を楽しむために、早速、岡部支所前の交差点から、県道を離れた旧道の街道に入ります。

 

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※岡部支所から旧道に入った辺り。

 

 旧道の道

 県道から、一筋東の旧道は、往時の道幅を保っているような通りです。それでも、町並は宿場町の面影はありません。

 ところどころに現れる、往時を偲ぶモニュメントなどを眺めながら、街道の様子を思い描いて歩きます。

 

 問屋場跡と記された、小さな案内板なども、住宅の植え込みに隠れるように置かれています。荷物を次の宿場まで取り次ぐ役割を果たしていた問屋場は、峠を控える宿場では、特に重宝されていたのしょう。

 

f:id:soranokaori:20210917155448j:plain問屋場跡を示す案内板。

 

 道は、緩やかに曲線を描きながら続きます。道沿いには、新しい住宅が軒を連ねて、真夏の光を跳ね返すような勢いです。朝から容赦ない熱気を放つ街道は、次第に山に近づきます。

 

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※旧道の様子。