旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

巡り旅のスケッチ(四国巡拝)40・・・阿波路(鯖大師と23番薬王寺)

 阿波の国へ

 

 室戸岬を出た後は、一気に阿波の国を目指します。阿波の国の最初の札所は、ウミガメで有名な日和佐(ひわさ)にある23番薬王寺。室戸から、80Kmの距離があり、歩いてつなぐと、途方もない長さです。

 かつて空海は、阿波山中での修行を終えて、室戸へと向かうのですが、その頃は、整備された道などありません。海岸伝いは、崖地と岩礁の連続です。山を越え、谷を下って、修行の地、御厨人窟(みくろど)を探し当てたのだと思います。

 

 県境越え

 高知県徳島県の県境までは、海沿いの単調なドライブが続きます。やがて、徳島県に近づくと、少しずつ、峠を越えるような坂道が現れて、周囲の景色も変化に富んだ様相に。

 徳島県に入っても、国道は、崖地の岬を避けるように、ショートカットを繰り返し、峠道と、海の近くの集落を、交互にすり抜けて続きます。

 

 鯖大師 

 実は、私自身、薬王寺を目指しながら、その前に、必ず訪れたいところがありました。その場所は、徳島県海陽町にある、鯖大師(さばだいし)と呼ばれる寺院です。この寺の本来の名前は八坂寺というそうですが、一般に、鯖大師という名で知られています。

 国道55号線を北上し、海陽町の中心地を通り過ぎて、数キロ進んだところが鯖瀬という集落です。この集落の入口辺りで、国道を左にそれて、JR牟岐線鯖瀬駅方面に進みます。その後、JRの軌道下を潜り抜け、少し進んだ先の右側に、鯖大師の駐車場がありました。

 鯖大師は、駐車場から直ぐのところに境内があり、大師像や立派な石柱が、出迎えてくれました。

 

f:id:soranokaori:20210514152534j:plain
f:id:soranokaori:20210514152610j:plain

※境内の入口辺り。右の写真の正面奥が本堂です。

 

 番外の札所

 鯖大師は、四国八十八か所霊場には入らない、いわゆる、番外と呼ばれる寺院です。四国の中には、幾つかの番外寺院があるようですが*1、私たちがその寺院を訪れるのは、鯖大師が初めてです。

 鯖大師の本堂は、境内の正面奥で、その左側に、少し雰囲気が異なった、大師堂がありました。 

 

f:id:soranokaori:20210514152643j:plain

※大師堂。

 

 鯖大師

 鯖大師は、何と言っても、その名前がユニークです。「鯖」は、勿論、魚の鯖。この寺院の由来には、鯖にまつわる、空海の伝説があるのです。

 その伝説は、非常に興味がある内容で、伊予の国の51番石出寺に伝わる、衛門三郎伝説と、真髄を一にするお話です。(衛門三郎の伝説については、「巡り旅のスケッチ(四国巡拝)22」を参照ください。)

 伝説の内容は、概ね、以下の通りです。

 

 空海が、阿波の国から室戸を目指して進む中、鯖大師の辺りで一夜を過ごされたということです。そして、次の日の朝、塩鯖を積んだ馬を曳く馬子が通ったとき、空海は、馬子に対して、その鯖を一匹分けてほしいと頼むのです。

 ところが、馬子は、空海に鯖を与えることなく過ぎ去ります。そして、その後、馬が腹痛を起こして倒れます。そのことを知った空海は、馬に水を与えることに。

 すると、馬は見る見る回復し、馬子は感謝し、空海に鯖を献じます。すると、空海は、自分は鯖を欲しかったわけではなく、人に施す心がほしかった、と。

 その後二人は海辺に行き、その塩鯖を海に放つと、鯖は見事に生き返り、泳ぎ去ったというのです。

 

 何とも現実味のない話ではありますが、施しの心を説いた伝説です。この馬子が、この後出家して、庵を築いたのが鯖大師の縁起という訳です。

 この伝説、幾つかの変形があるようですが、大筋はほぼ同じ内容だと思います。今もこの伝説を追うように、鯖大師へは、多くのお遍路さんが訪れます。

 

f:id:soranokaori:20210514152716j:plain

※大師堂前の鯖の石像。

 

 薬王寺

 鯖大師を出て、再び国道55線を北上です。そこから、およそ20Kmほどのドライブで、目的地、美波町の日和佐の町に入ります。

 しばらくして、国道の右側に、”道の駅日和佐”が見えると、その左前方には、小高い山の中腹に、幾つかの立派なお堂の屋根が現れます。

 このお堂のあたり一帯が、次の札所の23番薬王寺。なかなか見事な寺院です。

 

f:id:soranokaori:20210514152802j:plain

※駐車場から薬王寺を望みます。

 

 薬王寺

 薬王寺の駐車場は、小高い山の裾にあり、広大な敷地です。駐車場に面したところには、温泉施設や土産物店などが点在し、多くの観光客に利用されている様子です。

 薬王寺の入口は、駐車場から直ぐのところで、右手には、コンクリート造りの立派な客殿がありました。この客殿は、宿坊も兼ねていて、歩き遍路の方々が快適に過ごせるような施設に見えました。

 入口から、少し石段を上って進むと、仁王門。その先を右上方に上ったところが、薬王寺の境内です。

 

f:id:soranokaori:20210514153008j:plain

※仁王門。

 

 薬王寺の境内は、美しく整備され、洗練された印象を感じるところです。この霊場には、四国遍路の方だけでなく、多くの参拝者が訪れているのでしょう。

 石段を上り詰めると、正面には本堂が。そして、その左側に、大師堂という配置です。

 

f:id:soranokaori:20210514152928j:plain
f:id:soranokaori:20210514153126j:plain

※左、本堂。右、大師堂。

 境内には、本堂や大師以外にも、数多くのお堂が並びます。特に圧巻な建物は、「ゆぎ堂」と呼ばれる、多宝塔のようなお堂です。朱色に塗られた欄干などが、山の緑に鮮やかに映え、この霊場の深遠さを放っています。

 

f:id:soranokaori:20210514153239j:plain

※境内の様子。

 

 日和佐海岸

 薬王寺の境内からは、日和佐の町が一望に見下ろせます。前方には海や島なども眺望できて、絶好の展望台とも言えるでしょう。

 海の左方向は、日和佐海岸と呼ばれるところで、ウミガメが砂浜に上陸して産卵する場所として有名です。海岸の近くには、うみがめ博物館なども整備され、日和佐の町は、町全体が観光に力を注いでおられる様子です。

 

f:id:soranokaori:20210514153159j:plain

※日和佐の町。海が見える左手が日和佐海岸。日和佐城も見えますが、歴史的には不明のことが多いとか。

 

*1:番外の札所は、「別格霊場」とも呼ばれています。実際、四国には20か所の別格霊場があり、四国88か所と合算すると、108か所になるようです。