旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

巡り旅のスケッチ(四国巡拝)25・・・伊予路(45番岩屋寺)

 久万高原へ

 

 西条市にある60番横峰寺を終えた後、46番浄瑠璃寺までの霊場は、市街地近くに位置していて、車での巡礼はそれほど苦にはなりません。

 次の札所の45番岩屋寺は、愛媛県高知県を隔てる、四国山地にある険しい山の中の古刹です。巡礼は、再び厳しい修行の道へと変わります。

 

 

 45番岩屋寺

 次に向かう岩屋寺(いわやじ)は、四国山地西側の深い山の中のある霊場です。私たちは、浄瑠璃寺を後にして、国道440号と33号を辿りながら、一気に高原へと駆け上ります。

 松山平野四国山地をつなぐこの道は、つづら折れの急な坂道が続きます。運転に慣れた者でもなかなか厳しい道ですが、地元の人はお構いなし。アクセルをふかせて飛ぶように車を走らせます。

 時々、車内のミラーを確認すると、後方には何台もの車がじれったそうに連なっているため、道端に車を寄せて、後続車をやり過ごすことが何回かありました。

 

 この坂道を上り詰めると、久万高原町の小さな町が現れます。一見、高野山のような高地に開けた町ですが、ごく普通の町という印象です。それでも、道の駅やスーパーなど、休日は大勢の人で賑わいます。*1

 この町には、44番大宝寺がありますが、次の札所は45番岩屋寺です。大宝寺は後回し。私たちは、町の中ほどにある、久万中学前交差点から左に延びる県道に乗り換えて、さらに山地の奥に向かいます。

 この県道は、剣山の近くにある、面河渓(おもごけい)という景勝地に向かう道。深い山の谷間を縫うように続きます。それでも道路は良く整備され、交通量も少なくて、安心して走れるところです。

 

 43番浄瑠璃寺から、久万高原町まではおよそ30分。そこからさらに20分ほどのドライブで、岩屋寺に到着です。

 駐車場は、県道から右手の橋を渡ったところの集落内に、何か所か散在しています。民家の方が運営されているようで、それこそ家の庭先のような駐車場もありました。余り奥に進むと道が狭まるため、ほどほどの所で駐車です。 

 

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※左、駐車場が点在する麓の集落。右、岩屋寺に向かう山道の入口。

 

 境内に続く道

 駐車場から境内まで、この霊場ほど、距離があって険しい道は他にはほとんどありません。強いて言えば、ロープウエイを使わずに車で向かう21番太龍寺(徳島)と、71番弥谷寺(香川)が思い浮かびはするものの、いずれも、代替手段があるために、何とか境内に辿り着くことは可能です。

 「巡り旅のスケッチ(四国巡拝)18」で紹介した、60番横峰寺も、車でのアクセスは大変でしたが、駐車場から先の道は、緩やかな山道で、それほど苦にはなりません。ところが、岩屋寺だけは特別です。代替の手段は無く、自力で向かうしかないのです。

 お年寄りなど、足の不自由な方にとっては本当に辛い道のりです。

 

 駐車場に車を置いて、少し坂道を上って行くと、右側に数軒の小さなお店がありました。店先には、参拝用具や土産物などがところ狭しと並べられ、まるで出店のような雰囲気です。

 ここから先は、木々に覆われた山道となり、急坂が続きます。幸いに、足元はコンクリートで舗装されているため、ぬかるみなどはありません。

 しばらく上ると、右側に山門が現れます。この山門の脇には寺伝を記す石版が置かれていて、その中に、

 

      山高き谷の朝霧海に似て 松吹く風を波にたとえむ

 

 という、弘法大師が詠んだとされる歌も刻まれていました。

 

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※左、山門。右、寺伝を簡潔に記した石版。

 山門を潜り抜けた先には、石の階段や坂道が続きます。途中、朱色に塗られた欄干の小さな橋(極楽橋)辺りでは、少し傾斜も緩まりますが、その先は、また急な階段です。

 車での巡拝でも、岩屋寺への道中は大変な難所です。

 

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※左、極楽橋付近。右、上に境内が見えてきました。


 急な坂道や石段を踏み越えて、山道を歩くことおよそ30分。ようやく、視線の先に建物を捉えることができました。

 境内まであと一息、最後の急な石段が待ち構えます。

 

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※境内への最後の階段。

 

 石段を境内へと上ったところの右側には納経所がありました。そして、そこからもう一段、正面奥に向かう石段を上ると、ようやく本堂です。

 本堂の右手には、山肌が露出した岩場があって、洞窟のような空間に木製の梯子がかかっています。この洞窟にも祠などがあるようで、まさに山岳信仰の修行の場のようなところです。

 大師堂は、本堂の左側。少し変わった様式の建物です。

 

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※左、本堂。本堂の右に梯子も見えています。右、大師堂。

 

 深い山の中にある岩屋寺は、歩き遍路の方にとって、どのように映るのでしょう。今回の、逆回りの場合には、前の札所の45番浄瑠璃寺から25Kmを超える山道で、最後に30分の急坂が待ち構えます。

 正規の順序で巡った場合は、直前の44番大宝寺から10Kmの道のりですが、その前の43番明石寺から44番札所までは70Kmを超す長丁場です。

 心身ともに強靭な人でなければ、この難行を乗り越えることはできません。私たちなどには想像もつかない世界と言って良いでしょう。

 

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 ※大師堂前からの景色。

 

 大師堂から振り返ると、先には深い山々が広がります。このような山中にどうして寺院ができたのか、いつも不思議に感じるものの、私には理解が及ぶ問題ではありません。

 ただひたすら、空海の偉業を想い、巡拝の旅を続けます。

*1:国道440号と33号は、松山と高知を結ぶ主要道路です。そのため交通量も比較的多く、久万高原町は、休憩地として最適な場所なのでしょう。