讃岐路の終わり
いよいよ、讃岐路の終盤です。残る2つは、三豊市の大興寺と、香川県と徳島県の境に位置する雲辺寺。
讃岐の国で、険しい山の中の霊場を幾つか巡ってきましたが、最後に控える雲辺寺は、どことも比較にならない険しさです。讃岐山脈の西のはずれ、深い山並みの頂で遍路の人々を待ち受けます。
67番大興寺へ
観音寺市の南と東は、讃岐山脈の深い山が壁のように立ちはだかり、人の行く手をはばみます。四国八十八か所の67番目の札所である大興寺(だいこうじ)は、この山脈の裾野にほど近く、小高く残った林のような緑の中に、その姿を隠すように佇みます。
観音寺からは、南東の方角に進んで、再び三豊市の市域に入ります。走りやすく整備された農道のような道を進んで行くと、大興寺の入口を示す案内板が現れます。指示通り、農地が連なる道を辿ると、右奥の林の中に仁王門と駐車場が見えました。
大興寺を訪れるときには、必ず、この看板を目印にしなければなりません。カーナビでは、一筋西側の道を指示されるため、大興寺の裏手に回ってしまいます。詳しくは分かりませんが、裏手からは境内へは入れないかも知れません。
大興寺の仁王門は、駐車場のすぐ傍で、清らかに流れる農業用水路に架かる橋の正面です。仁王門周辺は、庭木が美しく整えられて、気品ある景色です。
仁王門をくぐると、正面に石段がそびえます。林の中に吸い込まれていくように、石段を上って行くと、右手にはクスノキの大木がありました。この地で何百年もの年月を見守ってきたような威風が伝わります。
※左、大興寺の入口と仁王門。右、仁王門をくぐって境内へ。
さらに上に進むと、その先に本堂の大屋根が少しずつ姿を現します。石の階段を上り切ったら、ようやくお堂などが並ぶ境内です。正面奥が本堂で、大師堂は左手にありました。
この寺院は、かつては真言宗と天台宗の道場であったということです。今でいうと、大学のようなところだったのかも知れません。
空海は、天台密教に対して、元より厳しい評価を下していたために、彼の時代に両密教が共存することはあり得ません。従って、両宗共存の勉学の場となったのは、空海の時代より、随分後のことだったと思います。
※左、本堂。右、本堂から大師堂を望む。
司馬遼太郎の『空海の風景』では、空海の天台密教に対する捉え方を、次のように記しています。
「空海からすれば、天台は顕教*1にすぎず、読んであからさまにわかるというものにすぎない。天台は「宇宙や人間はそのような仕組みになっている」という構造をあきらかにするのみで、だから人間はどうすればよいかという肝腎の宗教性において濃厚さに欠けるものがある。」
という具合です。後に、空海と最澄は、共に第18次の遣唐使として唐の国へと向かうことになりますが、2人の境遇や唐での行動は随分と異なります。帰国後の密教開祖への動きも同様で、このようなことを考えていると、真言宗と天台宗が共存することへの違和感を、なぜか感じてしまいます。
66番雲辺寺へ
次に向かう雲辺寺は、讃岐路の最後の札所です。大興寺を出て、少し西に戻った後は、南に連なる山並の中に入ります。目指すところは、雲辺寺へとつながるロープウエイの麓駅。急な坂道を上って進むと、山脈の中腹辺りに麓駅がありました。
雲辺寺へは、山脈の裏側の徳島県から入ることもできますが、随分と遠回りするうえに、山の中の細く険しい道路を辿らなければなりません。以前、ここを訪れた時は、この山道のドライブに苦戦したものです。
時間や安全のことを思うと、ロープウエイの利用が第一です。*2
※ロープウエイの麓駅。
山頂へ
ロープウエイの乗車時間は約10分。見る見る高度を上げて、一気に山頂付近に到着です。下を眺めると、瀬戸内海や観音寺市、三豊市の平地の景色が鮮やかです。
※ロープウエイからの景色。
山頂
山頂に到着すると、そこは、公園のような光景です。少し右の方向を見てみると、スキー場もありました。
園路を少し進んで行くと、徳島県と香川県の県境を示す道路上のモニュメントがありました。雲辺寺は、ここから左。讃岐路の最後の霊場でありながら、実際は徳島県の領域です。
※ロープウエイ駅を出て、園路を進みます。
徳島県側に続く坂道を下っていくと、奇妙な石像が無数に並び、異様な感覚を覚えます。坂を下ったところが仁王門。本来はこの門をくぐって境内へと進むのですが、本堂は、仁王門の前を通り過ぎ、わずかに右に向かったところ。
順路に従い、本堂へと向かいます。
※左、境内への坂道。右、仁王門。
本堂は、小さな鉄筋の建物です。新しく建立された様子の建物は、歴史の重みはないものの、これからも、霊場の存在を伝えていくという意気込みが伝わります。
大師堂は、本堂から少し右に迂回した場所にありました。帰りは、石の階段を下り、先ほどの仁王門から出ていきます。
※本堂。
私たちは、ロープウエイを利用して、険しい山の頂にある霊場を参拝することができますが、ここを歩くと、どれぐらいの時間がかかるのか。気が遠くなるような山道です。