旅素描~たびのスケッチ

気ままな旅のブログです。目に写る風景や歴史の跡を描ければと思います。

歩き旅のスケッチ[中山道総集編]8・・・峠道(後編)

 信濃路から上州へ

 

 信濃路の峠道は、中山道きっての難所です。その中でも、最も厳しい峠道は和田峠。そして、続く難所のひとつが、信州と上州を隔てる碓氷峠です。

 信濃路から幾つもの峠を乗り越えて、上州に辿り着いたら、もう江戸はそれほど遠くはありません。

 今回は、峠道の最終回。信州の塩尻峠から、上州の玄関口である碓氷峠まで、一気に振り返りたいと思います。

 

 

 塩尻

 塩尻峠は、30番塩尻宿のすぐ後から、峠道が始まります。向かうところは、信州の産業を牽引してきた諏訪盆地。その中心に諏訪湖を擁し、信仰や景勝の地としても有名です。

 中山道は、34番奈良井宿を出てからは、奈良井川に沿うように、平坦な道が続きます。31番洗馬宿(せばじゅく)を過ぎると、塩尻盆地に入ります。りんごやブドウなどの果樹園が広がって、甘い香りが漂ってきそうな道筋です。

 塩尻の宿場に近づくと、街道は再び上り坂。宿場町自体も、緩やかな坂道に沿ったところにありました。

 塩尻宿を通り過ぎ、集落の中を進んでいくと、見晴らしの良い丘陵地が現れて、峠道が近づきます。

 

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※峠へと向かう道。

 

 長野自動車道の高架橋を越え、国道20号線の道路下を潜り抜けると、街道は山道に入ります。ところどころに集落もあって、それほど鬱蒼とはしていない、林の中の街道です。この辺りの峠道は、勾配も苦にならず、気分よく歩けるところです。

 ほどなく、左手に小高い塚のようなところが現れて、塩尻峠に到着です。

 

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塩尻峠。

 

 この峠には、展望所があって、美しい諏訪湖が見下ろせます。

 湖を見下ろす風景は、近江路の摺針峠と似ています。峠と湖が見事に融合した絶景は、昔から、旅人の心を和ませたことでしょう。

 峠を過ぎると、諏訪湖のほとり、岡谷市へと続く下り坂。この道は、しっかりと舗装されていて、峠道という感覚はありません。ウォーキング気分で歩ける下り坂。諏訪湖が次第に大きくなって、岡谷の町が近づきます。

 

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※岡谷への下り坂。

 

 和田峠

 次の峠は、和田峠中山道屈指の難所と言われる峠です。和田峠は、29番下諏訪宿と28番和田宿の間に立ちはだかる、急峻な山々に連なる尾根にあり、中山道の最高地点。

 さらに、和田峠を挟む2つの宿場は、およそ22Kmも離れていて、中山道の宿場間では、最も距離が長い区間です。

 高さと距離の両方が、旅人の足を苦しめます。

 下諏訪宿から峠への道は、上り坂が続くものの、前半はゆったりとした坂道です。諏訪大社御柱を滑り落とす木落し坂や、水戸浪士の浪人塚などを越えて行ったら、やがて、街道は山の中に入ります。その後は、峠道は、それこそ崖道や登山道になっていて、ここから先が大変です。地図とGPSで位置確認をしていても、油断すれば、道を失ってしまいそう。ここは、細心の注意が必要です。

 

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※谷あいの崖地に延びる街道。トラロープが目印です。この道は、都方面からは要注意。簡単に迷ってしまいます。

 

 山道は、途中何回か、国道142号線の旧道を横断し、急斜面の道に変わります。これほどの斜面の道を、皇女和宮や大名たちを乗せた輿は、どのようにして運ばれていったのか。担ぎ手の人たちの苦労は如何ばかりであったかと、感心するばかりの険しさです。

 峠に近づく辺りでは、木々はそれほどありません。むしろ、熊笹などが、峠道を覆うように広がります。

 七曲と呼ばれる、つづら折りの細道を登っていくと、ようやく峠が見えました。

 峠の頂上は、これまでの細くて急峻な峠道とは打って変わって、見晴らしの良い広場のようなところです。上り道の疲れを癒すため、ゆっくりと休憩ができる、気持ちの良い峠です。

 振り返ると、残雪を頂いた日本アルプスの山並みや、山間の集落などの絶景が広がって、疲れが一度に吹き飛んでいく気分です。

 

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和田峠の頂上と日本アルプスの絶景。

 

 和田峠の下り道は、道幅も広がって、上り道とは異なる雰囲気です。ただ、和田宿までは相当な距離。再び、疲れが押し寄せます。

 途中には、美ヶ原高原と霧ケ峰などを結ぶビーナスラインを横断し、下へ下へと向かいます。男女倉口(おめくらぐち)まで下りきると、国道142号線と合流です。ここまでが、和田峠の峠道。その先は、国道に沿って、和田の宿場へと向かいます。

 

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※峠からの下り道。4月下旬でも残雪がありました。

  

 笠取峠

 和田峠を下りきって、和田の宿場を越えたその先が、27番長久保宿。笠取峠は、長久保宿と、次の宿場、芦田宿を隔てる小高い山の峠です。

 笠取峠は、国道142号線の脇にあり、今では、山道のような峠道はほとんどありません。長久保宿の東の外れ、松尾神社を通り過ぎれば、ひたすら、ジグザグの舗装した坂道を登ります。直線的に山を登る旧道もあるようですが、少し分かりにくい道。舗装道路が確実です。

 途中から、国道と合流し、歩道を進むと笠取峠の標識が。ここまでは、それほど特徴ある峠ではありません。

 

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※笠取峠。

 

 笠取峠の特徴は、峠を通り過ぎた後、芦田宿に入る手前の松並木。中山道では珍しい、松並木の街道が保存されているのです。

 この並木辺りは、地域の人たちによって良く管理されていて、松並木の公園といった雰囲気です。花見などもできるようで、憩いの場ともなっている様子です。

 

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※笠取峠の松並木とその付近。

 

 碓氷峠

 最後に振り返る峠道は、碓氷峠(うすいとうげ)です。この峠には、中山道と少し距離を置き、国道18号線が山の中を縫うように走っています。

 今から4年前に、スキーバスが大事故を起こした道で、急坂とカーブの道は記憶されている方も多いでしょう。元々は、碓氷峠を挟む、軽井沢駅・横川駅間は、信越本線の鉄道で結ばれていたとのことですが、新幹線の開通により、20数年前にこの区間廃線となりました。以後、在来線での往き来ができなくなって、今では国道18号線を通るバスが、鉄道の代替輸送を担っています。

 

 それはともかく、碓氷峠の峠道は、軽井沢のメインストリート、軽井沢銀座商店街を抜けたところから始まります。観光客でごった返す商店街を抜け出ると、すぐに山道に入ります。この道は、地元の方たちも散策で利用されているようで、何人かのウォーキングの方々と出会うことができました。

 軽井沢自体が、既に、かなり標高が高い位置碓氷峠までの道のりは、難所という感じではありません。軽井沢方面からは、それこそ絶好のハイキングコースです。

 

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※軽井沢銀座。この通りの向うから山道に入ります。

 

 峠には、車でも直接行けるということもあって、土産物店や茶店などもありました。また、峠に鎮座する熊野神社は、長野県と群馬県の県境。たくさんの参拝客の姿がありました。

 

 碓氷峠は、ここから先が難所です。鬱蒼とした山の中の下り坂。湿った地道や滑りやすい急坂に加え、足場の悪いぐり石の道など、17番坂本宿を確認するまで、長い長い下り坂が続きます。

 江戸からこの峠を越えるとき、最初に立ちはだかる壁のような坂道は、さぞ旅人を苦しめたことでしょう。

 

碓氷峠は、iPadの不具合で写真がありません。実は、刎石の覗き(はねいしののぞき)と呼ばれる見晴らし所からは、坂本宿が真下に見下ろせて、素晴らしい撮影ポイントです。ここで紹介できないのが残念です。

 

  中山道の峠道はここまでです。次回からは、宿場と宿場の間にある、間の宿(あいのしゅく)や、道中の見どころなどを振り返りたいと思います。