近江路の転換点
京の都を発ち、逢坂山の峠を下ると琵琶湖を望む近江路に入ります。その後、瀬田の唐橋で再び琵琶湖を見届けた後は、中山道は、湖と少し距離を置いて北上します。
そして、次に琵琶湖を望めるのは、鳥居本宿を過ぎた後、摺針峠(するはりとうげ)までありません。そして、これが最初で最後の琵琶湖北湖の姿です。*1
摺針峠を越えると、街道は美濃に向かって山の麓を縫うように進みます。これまでの平坦な道と少し様相が異なり、変化に富んだ道筋に変わります。
高宮宿から鳥居本宿(とりいもとじゅく)へ
高宮宿を出ると、中山道は、しばらくは彦根市の東部の町を北上します。道は狭く、車の往来も結構あって注意が必要です。ただ、街道は中山道らしく、歴史を感じる区間です。特に、鳥居本宿に近づくにつれて、その雰囲気は高まります。
この辺りは、右手に名神高速道路、左手に東海道新幹線が走り、交通の動脈が集中しています。そして、近代の交通幹線に挟まれるように、江戸時代の動脈である街道が、ゆったりと、また、よくその面影を残しながら続いているのです。
※鳥居本宿への道。
63番鳥居本宿
高宮宿を出て6Km、鳥居本の宿場に入ると、直ぐに道標が出てきます。中山道と彦根道の分岐点で、左に折れると佐和山(さわやま)を通って彦根の市街地に向かいます。真っ直ぐ進むと中山道。下の写真では、「右、彦根道 左、中山道」となっていますが、これは、都方面に向かっての案内です。
佐和山は、かつて石田三成の居城があったところです。街道の左手奥に連なる低い山並みの中の小高い山が佐和山で、中山道からは数百メートルほどの距離。そして、山並みの向こうに、井伊家の居城、彦根城がひかえています。
鳥居本の宿場は、歩き旅のスケッチ13で少し触れたように、朝鮮通信使が通過したところでもあります。朝鮮通信使は、野洲で中山道から離れた後、朝鮮人街道を辿って近江八幡へと向かい、彦根の城下に入ります。その後一行は、鳥居本で中山道に戻り、摺針峠を越えて東に向かうことになるのです。
石田三成の時代を経て、江戸期へと、鳥居本は、奥深い歴史が刻まれた宿場です。
※彦根道との分岐の道標。
中山道は、鳥居本の古い街並みの中を延びていきます。街道沿いの家並みは、往時の面影を留めるのに苦労している様子で、良い雰囲気を残しながらも、時代の歩みと葛藤しながら、往時の宿場町の歴史を引き継いでいる様子です。
町の途中に、近江鉄道鳥居本駅の案内がありました。ここから彦根駅までは1駅です。また、反対方向は新幹線の駅がある米原駅に向かうことができます。ここからわずか2駅です。
古い住宅が混じる街道が直線的に延びた先、道が右に大きく屈曲する辺りには、重厚な屋敷が構えていました。赤玉神教丸という胃薬の老舗で、かつての姿をよく残してくれています。
※胃腸薬の老舗、赤玉神教丸の屋敷跡。
ここから先は、少し小さな屈曲を繰り返し、街道は、一旦国道8号に接近します。その後は、わずかに残る旧道へ。そして、摺針峠の麓につながっていきます。
※左、鳥居本宿出口。右、摺針峠への麓。旧中山道は左の砂利道で、右の舗装道路は摺針峠に続く今の道です。
摺針峠(すりはりとうげ)
中山道は、都を出てから直ぐに逢坂山を越える山道になりますが、その後は、緩やかな坂道はあっても、概ね平坦な道が続きます。ところが、この摺針峠は少し難所。途中、急坂が待っています。
※摺針峠への山道。
鬱蒼とした木々の間を抜けていき、急な坂道や階段を越えると舗装道路に行き着きます。そして、その上が峠です。峠には望湖堂と呼ばれる、湖を望む建物があったようですが、今は焼失しています。それでも、この辺りからは今も琵琶湖が望め、それは絶景に値する景色です。
かつて、中山道を往来した旅人は言うまでもなく、朝鮮通信使の一行も、この景色を堪能していたに違いありません。
※摺針峠からの遠景。琵琶湖北湖を望みます。
摺針の集落には、20件ほどの民家が残っています。街道は、この間をすり抜けて、山の中に入っていきます。
※左、摺針峠。右、峠からみた摺針の家並み。
62番番場宿(ばんばじゅく)へ
摺針の集落を過ぎると、街道は山に囲まれた隙間を潜り抜けていきます。そして、直ぐに右隣りには名神高速道路が走ります。しばらくの間、高速道路と隣り合わせの道を進むと、わずかに山が開け、農地が現れます。また、正面前方には、伊吹山が顔をのぞかせ、番場宿へと入っていきます。
※左、摺針の集落出口。右、右上が名神高速道路、正面に伊吹山が望めます。
番場宿
番場宿の入口には、石造りの案内モニュメントが置かれています。宿場は最初、緩やかな坂道をゆったりと下る直線です。瓦屋根の民家が連なりますが、宿場の面影はありません。それでも、延々と続く直線の街道は、何故か不思議と歴史の重みが伝わってきます。
※左、番場宿の入口の石碑。
番場の宿場の見どころは後半にあります。途中の信号の交差点を過ぎた辺りから、道は右に左に屈曲し、古い屋敷や木々などが迫ってきます。
そして、宿場を離れると、今度は醒ヶ井方面へ。
鳥居本宿から番場宿までは5Km。ここには駅がないため、次の醒井宿(さめがいじゅく)まで歩みを進めます。
※番場宿の後半。